新型コロナウイルスの感染症状は人それぞれです。感染しても約80%は無症状あるいは軽症で経過するが、高齢者を中心に約15%は重症肺炎を発症する、そして約5%は致命的な急性呼吸促迫症候群(ARDS)に陥るという報告があります。

ARDSは致死率も高く、サイトカインストームという免疫系の暴走が生じていることも明らかになりましたが、現段階で確実に有効だと言える治療薬は存在しません。身を守るためにできることは「たとえ感染しても発症しない、重症化しない」構えが大切です。

基礎疾患の有無や体力低下など、さまざまなコンディションの違いが挙げられるなかで、重症患者の多くを高齢者が占めている理由のひとつに「酸化ストレス」が関与しているのではと考えられています。

生物は、空気中の酸素を取り込み生命活動を維持しています。体内に取り込まれた酸素の一部は「活性酸素」となり、免疫機能や感染防御といったさまざまな役割を担いますが、一方で過剰に産生されると細胞を傷つけ免疫系に異常をきたす要因にもなります。

私たちの体には余分な活性酸素に対抗する抗酸化防御機構も備わっており、このシステムが年齢とともに低下するため、高齢になればなるほど酸化ストレス度は増加します。歯科の分野では、歯周病の進行により、活性酸素の産生が促進されることも研究で明らかになっています。

歯周病菌の病原性によって体の免疫が応答しますが、その中で過剰に産生された活性酸素が逆に歯周組織を破壊すること、血流に乗って各臓器に拡散され障害を引き起こすことで全身に悪影響を及ぼす仕組みです。歯ぐきからの出血は歯周病の入り口、ちょっとした体のサインを見逃さないことも大切です。

 

◆照山裕子(てるやま・ゆうこ)日本大学歯学部卒。同大学大学院歯学研究科を経て東京医科歯科大学歯学部付属病院勤務。テレビやラジオでのわかりやすい解説が評判となり、雑誌のコラムや日刊スポーツでの連載を担当。文筆家としての活動も積極的に行う。現在は東京医科歯科大学非常勤講師、日本アンチエイジング歯科学会理事、複数の歯科クリニックで診療。