患者さんに時折、歯みがき剤の効果や選び方を尋ねられることがあります。「目的に合ったものを常に数種類使い分けていますよ」と答えると大変驚かれます。

肌質や髪の色が違うように、口の中も十人十色。私の例を挙げると、会議などでコーヒーやお茶を飲んだ後には着色汚れを酵素で浮かせるタイプ、就寝前は歯周病予防のために殺菌作用が含まれているものを、という具合で頻繁に変えています。

1998年(平10)の口腔(こうくう)衛生学会誌に、歯みがき剤使用の有無による歯垢(しこう)付着量の違いについての研究結果が掲載されています。この論文によると、歯みがき粉を使用してブラッシングを行った方が歯垢付着量の減少を認めたと示されています。

歯垢をつきにくくする、歯本来の白さを保つ、さらには口の中全体が清潔になり口臭を予防する効果があることを鑑みると、やはり歯みがき剤を歯ブラシと併用した方がセルフケアには効果的と言えます。虫歯予防や知覚過敏予防といった薬用成分が配合されている製品も多いので、自分の口の状態を知り、用途に応じた歯みがき剤をシーンごとに選んでいただきたいと思います。選び方がわからないという方は、まずは歯科受診を。

新型コロナウイルス感染者数の増加に伴い、自宅療養する方の人数も増えているようです。自宅における家庭内感染を防ぐためにも、ご家族ひとりひとりが違う歯みがき剤を使用することは大変重要です。ホテル療養をされた方の体験談で「物資が行き届いていないこともあるので、歯ブラシや歯みがき剤を持って行くことを忘れずに」とのアドバイスがあり、歯科からの啓発意義を再認識しました。どんな環境下にあっても、口を健やかに保つことは人間が生きる礎です。

◆照山裕子(てるやま・ゆうこ)日本大学歯学部卒。同大学大学院歯学研究科を経て東京医科歯科大学歯学部付属病院勤務。テレビやラジオでのわかりやすい解説が評判となり、雑誌のコラムや日刊スポーツでの連載を担当。文筆家としての活動も積極的に行う。現在は東京医科歯科大学非常勤講師、日本アンチエイジング歯科学会理事、複数の歯科クリニックで診療。