年齢とともに歯を失うリスクが上がるため、超高齢社会の我が国では取り外し式の入れ歯を装着されている方も多くなっています。

厚生労働省から発表された2016年(平28)の歯科疾患実態調査によると、後期高齢者の約3割が総入れ歯を使用しているという。入れ歯に使用される素材はアクリル樹脂というプラスチックが主体になっていますが、吸水性があり、唾液や食物からの汚れを内部に吸い取ってしまう特徴があります。

プラスチックの占める面積が広ければ広いほどこうしたデメリットがあります。そのため水洗だけでは不十分で、入れ歯洗浄剤の力を借りる必要があるのですが、正しいケア方法が伝わっていないことも臨床の現場で感じるジレンマのひとつです。

入れ歯は外側だけでなく内側にも汚れが残ります。「義歯ブラシ」という入れ歯専用のブラシを使って、歯みがきと同様に機械的な清掃を行ってください。化学的な清掃である入れ歯洗浄剤に浸すのはその後です。表層の汚れがしっかり落とせていないと、洗浄剤の効果が発揮できません。

また、入れ歯を外した際には口の中をしっかりゆすぐことも大切です。粘膜に汚れが残ると「義歯性口内炎」という炎症の原因になりますから、夜間は外すのが基本です。14年に日本大学の飯沼教授らが発表した論文で「義歯(入れ歯)を装着したまま就寝する人は肺炎を発症する可能性が2・3倍になる」という報告が上がり、非常にセンセーショナルでした。

コロナ禍の今だからこそ、肺炎予防にも十分な気を配りたいものです。入れ歯が装着されている粘膜は、圧迫され血行が悪くなっています。毛細血管が栄養を運べず萎縮してしまうため、1日1度は外して粘膜を休ませることも必要です。

◆照山裕子(てるやま・ゆうこ)日本大学歯学部卒。同大学大学院歯学研究科を経て東京医科歯科大学歯学部付属病院勤務。テレビやラジオでのわかりやすい解説が評判となり、雑誌のコラムや日刊スポーツでの連載を担当。文筆家としての活動も積極的に行う。現在は東京医科歯科大学非常勤講師、日本アンチエイジング歯科学会理事、複数の歯科クリニックで診療。