朝昼晩の歯みがきの際に、鏡で口の中を見ているという方は少ないようです。口のがんは前触れがあることが多いとされており、日々の小さな変化に気づくことが生命を左右する分かれ道になるかもしれません。

頬粘膜や舌、歯ぐきの一部の角質が厚くなり白っぽく見える「白板症」という病気があります。約10%の確率でがんになると言われており、口腔(こうくう)に生じる前がん病変(がんと関係の深い粘膜病変)のなかで最も代表的な疾患です。

食べ物などが当たるとしみる感じがあったり、痛みを生じるケースもあり、特に舌にできた白板症は悪性化の可能性が高いことがわかっています。口の中に擦っても取れない白い部分を見つけたら、歯科医院を受診しましょう。

また、舌や歯ぐきなどの鮮紅(せんこう)色になる「紅板症」という病気もあります。表面は平らでビロード状を呈し、初期は刺激痛を伴うことが多いのですが、紅板症の約50%が悪性化するとされているため、こちらも注意が必要です。

たばこや過度な飲酒といった嗜好(しこう)品によるがんリスクが高いことは言うまでもありませんが、合わない義歯(入れ歯)や治療途中で放置した虫歯の陥凹(かんおう=くぼみ)、不正な歯並びなど、粘膜を刺激する危険因子がある場合は改善しておく方が安心です。

なにより、常に口の中に歯垢(しこう)や歯石といった汚れがたまり、粘膜の変化に気づきにくいような衛生状態であれば間違いなく発見が遅れます。また、自分では全く認知していなかったものの、家族や同僚に異変部分を指摘され検査を受けたら重大な疾患だったという患者さんにも時折お会いします。そうした観点で考えると、口元がマスクで覆われている生活が長く続けば続くほど、他者からのチェックが行き届かない現状にあるといえます。