【誤嚥のメカニズム】

超高齢社会に突入した現代において、高齢者が気をつけたい疾患のひとつに肺炎が挙げられます。社会問題としても注目されてきましたが、原因のほとんどは「誤嚥(ごえん)」と呼ばれる飲み込みミスで、これは口やのどの筋力低下が関わっています。

逆に言えば早い段階からこうした筋肉を鍛えることでリスクが減らせると考えてよいでしょう。飲食したものを口からのどに送り込む場合、まず重要になってくるのが舌の筋肉です。

舌は大きな筋肉の塊でできたような組織ですが、加齢に伴い、全身の筋肉と同様に萎縮していきます。つまり、舌が衰えると、のどに送りこむ力が低下するのです。歯が弱っている場合は、そもそも食べ物を小さくすりつぶすことができないため、丸のまま送り込むことになり、さらなる危険が伴います。

のどは、防波堤の役割をしている「喉頭蓋(こうとうがい)」という部分を分岐点として、食道と気管に分かれています。口からの飲食物は食道へ、空気は気管へと送り込まれるのですが、ここで、のどの老化による機能低下があると、飲食物が誤って気管に入るという現象が起きます。

飲み込み力の主体となるのは喉頭挙上筋群と呼ばれる、のど仏を上下させる筋肉です。ごっくんと飲み込む際、この筋肉の働きでのど仏が2~3センチほど上前方に上がり、気管に通じる道をふさぐフタ(喉頭蓋)が閉じ、声帯も閉じます。そして食道への道がほんの一瞬だけ開くという絶妙な連携プレーによって、消化器官へ飲食物が届けられるのです。

しかし喉頭挙上筋群の老化によってのど仏の位置が下がると、このフタがうまく閉まらなくなります。また、さまざまな反応が遅れると、フタが閉まるタイミングと飲食物が通るタイミングが合わなくなる。これが誤嚥のメカニズムです。