ストレス状態が続くと脳由来神経栄養因子(BDNF)が減少する。ストレスホルモンを人為的に注射すると脳内で同じような変化を起こすということからうつ病との関与が疑われた。「こころに効く精神栄養学」(女子栄養大学出版部)の著者でうつ病治療に詳しい帝京大学医学部精神神経科学講座の功刀浩主任教授はこう話す。

「その一方で、ネズミをよく運動させると海馬でBDNFが増えて脳内に新しい神経細胞のもとになる神経新生が盛んになります。ストレスを与えたネズミでもよく運動させれば海馬のBDNFの減少がなかったという結果もあります。運動は抗うつ薬と同じような働きをするというわけです」

そのためBDNFが記憶・学習の中心的なはたらきをしているのではないかと考えられるまでになった。功刀主任教授が続ける。

「BDNFにはたとえば食欲を抑えるはたらきや糖代謝、エネルギー代謝を改善する働きなど多彩な機能があるのです。またインスリンのような作用もあることが知られています」

BDNFは血中の血小板の中に多く蓄えられていて出血の際などはケガの修復にも役立っているという。今後の研究結果が待ち遠しい。

コロナ禍による自粛生活のひろがりやテレワークの普及で身体活動が低下していることに加え、社会不安や生活困難でストレスがかかり、反対に娯楽などのストレスを解消する機会が減っている今、意識的に体を動かしてBDNFを増やす行動を心がけてはどうだろう。