■痛覚変調性疼痛

数回にわたり慢性疼痛(とうつう)についての掲載をしてきましたが、私自身、整形外科医であると同時に愛知医科大学学際的痛みセンターの初期メンバーであり、痛みに関する多くの患者さんを診察してきました。

その経験では、痛みを訴えて受診される患者さんは多種多様で、個人によって痛みの感じ方が異なり、社会背景や人間関係に左右され、精神的な症状を引き起こしてくる場合もあります。体や神経の損傷など明らかな痛みの原因がなくても痛みを訴える方も少なくありません。

そんな患者さんは前医などで「精神的な問題」や「心の問題」などと言われることも多いようです。しかし、最近はこの種の痛みも脳の神経回路の変化が影響して生じるものであることが解明されてきています。2017年(平29)、国際疼痛学会はこの痛みについて、従来の「侵害受容性疼痛」「神経障害性疼痛」の2つの痛みに続く「第3の痛み」として「ノシプラスティックペイン」という概念を新たに定義しました。

日本では21年9月に日本痛み関連学会連合会が「痛覚変調性疼痛」として公表しました。この痛みは、痛みへの恐怖、不安、怒りやストレスといった社会心理的な要因が大きく関係しており、それらの影響で神経回路が変化し、痛みを長引かせ、悪化させるとみられています。

今までは精神的な痛みと片付けられていたものが、この新しい分類によって正式な痛みとして診断されるようになり、今まで難しかった治療も発展していくことが期待されます。