<8>歯周病菌の定着

口の中の細菌は家族など周囲にいる人からの唾液感染で定着し、成長につれてバラエティーに富んだ菌叢(きんそう)が完成していきます。虫歯の原因菌は乳歯が生えるタイミングで定着するのに対し、歯周病菌の定着はおおむね中学生頃から確認され、両者には時間差があるのが特徴です。

今から40年ほど前には10数種の嫌気性菌(歯周ポケットのような空気に触れない場所で増殖する菌)が歯周病を起こすと言われていたのですが、今日に至るまでにさまざまな解明が成されました。

現在、歯周病に関連する菌は病原性の違いによって6つのグループに区別され、ピラミッドのような上下関係を持っていることがわかっています。研究モデルではグループが色分け表示されているため、その頂点に位置する病原性の高い3菌種は赤で示される「レッドコンプレックス」という呼び名がつきました。

この3菌種が存在すると重度の歯周病になりやすいのですが、中でも最強の悪玉菌である「P.g.菌=Porfhyromonas gingivalis菌」は動脈硬化やアルツハイマーといった全身疾患に関わる厄介な菌です。

この「P.g.菌」は18歳以降にしか感染が起きないことから、異性との交流が始まる思春期以降は特に要注意と考えてください。菌の存在がすぐに発症につながるわけではないにせよ、もらわないに越したことはありません。飲み物の回し飲みや、鍋を同じ箸でつつくといった習慣も気をつけたいところです。

実際にクリニックでお会いする患者さんの中には「歯周病の治療=歯石を取る処置」と簡単に考えている方もいますが、こうした菌の存在を調べる検査を取り入れ、生活習慣を鑑みながらの指導を行うなど、現代の歯周病治療は劇的なアップデートを遂げています。世界中の研究者たちの成果によって、私たちの口が守られているのです。