<9>歯周病を悪化させる因子

病気は災いや天罰と扱われ、呪術や魔法といった非科学的な力によって治すことが当たり前だった古代ギリシャにおいて、医療の礎を築いたとされるのがヒポクラテスです。科学的な観察を重ね、食事や生活習慣、環境によって病気が生じると提唱したことから「医学の祖」と呼ばれるようになりました。

歯周病も、実はこうした要因が複雑に絡み合って起きる代表的な疾患です。病原性を持つ歯周病菌や、その塊であるバイオフィルム(歯垢=しこう)は「細菌因子」のひとつにすぎず、年齢や性別、遺伝や歯並びといった「宿主因子」、喫煙やストレス、食習慣といった「環境因子」が交差した際に発症します。

細菌因子に関しては直ちに自身で介入できる因子のため、ここを改善していただくことが歯周病治療のスタートになります。バイオフィルムの厚みが増えるほど細菌の攻撃力も強くなることがわかっていますが、歯科医院でクリーニングを受けてぴかぴかの口元になったとしてもブラッシング方法が悪いと元のもくあみです。

3日ほどで病原性が高い集落が再構築されてしまうのですから、いかにセルフケアが肝になるかが分かります。時折「1日に1回しか磨かないけど健康そのもの」といったお友達が皆さんの周りにもいらっしゃると思います。こうした方はブラッシングが的確な上に歯周病菌への抵抗力が非常に高いなど、宿主因子が良好なタイプかもしれません。

欠かさずケアをしているけれども、疲れた時に必ず歯ぐきが腫れるといった方はその逆が考えられます。リスクファクターである喫煙をやめる、栄養バランスのとれた食事を心がけるなど、環境因子にも気を配ることが健康への近道です。ヒポクラテスが書き残した文言にも、自然治癒力の重要性が多く語られています。