歯が痛くて食事がとれない時に、おかゆなどかまずに済むもので対応する方も多いのではないでしょうか。歯がうまく機能しなくても飲み込むことは可能であり、「食べる」という行為をひもとくと、実は歯以外のいろんな部分が総動員されていることに気づきます。

食片をつぶし、唾液と混ざり合わせることで食塊(しょっかい)ができ、それを食道まで送り込むという一連の動作に深く関係しているのが「舌」です。歯だけでなく舌が元気でなければ、しっかり食事がとれません。

舌の運動機能を調べる方法のひとつに「舌圧(ぜつあつ)」という要素があります。口に取り込んだ食品を、舌が口蓋(こうがい=上顎の中心部分)前方部との間でつぶす力と定義されています。舌圧は大きければ大きいほど良く、数値が低い場合はトレーニングによって増加させることで機能改善が図れたと捉えることができます。

患者さんには、体力測定で握力や背筋力を測るのと同じ感覚で考えていただける、実にわかりやすい指標です。健常有歯顎(ゆうしがく)者(すべての歯がそろっている人)でかみ合わせが安定している853人の舌圧を計測したデータによると、若い頃は男性が女性より大きな値を示すのですが、年齢とともに男女差はなくなり、60歳代以降で低下することが分かっています。舌圧はむせや、嚥下(えんげ)機能(飲み込む機能)との関連も深いため、意識して鍛えることは食生活に有益ですし、やがては全身の健康にもつながります。

自分でできるトレーニング用具として「ペコぱんだ」という商品があります。5種類の硬さがあり、舌の筋力とともに徐々にレベルを上げていきます。トレーニング部分を舌で押し上げる動きを5回×3セット、これを1日3回、週3回以上のトレーニングがおすすめです。筋力アップか持久力の向上を目的にするかで、硬さの使い分けもできます。