乳がんの薬物療法は、進化が目ざましい。それには大きく分けると「ホルモン薬」「抗がん薬」「分子標的薬」の3つが使われています。今回は分子標的薬を紹介します。

分子標的薬は、がん細胞の増殖などに関わるポイントを標的としてたたくことのできる薬です。乳がん細胞での代表的な標的は、HER2陽性乳がん細胞の表面に存在するHER2たんぱくで、これはがん細胞の増殖に関わるたんぱくです。このHER2たんぱくを抑えることでがん細胞の増殖を抑えるのが「抗HER2薬」です。「トラスツズマブ」「ペルツズマブ」などがあり、転移再発乳がんの抑制だけでなく、術後の再発予防としても有効性が証明され、保険適用になりました。抗HER2薬は、単独で使うよりも抗がん薬と一緒に使うことで効果の高いことが分かっています。

手術前後で再発予防として使うときは通院での点滴投与で、3週に1回、1年間点滴します。手術前に3カ月投与していると、術後に9カ月投与することになります。点滴投与にかかる時間は1、2時間程度。初回だけはゆっくり点滴しますので、3時間程度になります。

再発した患者さんに使う場合は、がん細胞を抑える効果がなくなるまで使い続けるため、何年も長期間投与を続けている方もいます。CTなどの画像診断では、がんが消えてしまったことを確認しながら長く投与を続けることができます。そのため、どこで薬の投与をやめるべきか、やめるとがんがまた出てきてしまうのかが、わかりません。今のところ、投与をいつまで続けるべきかに関しては、答えはありません。

副作用としては、トラスツズマブは非常に少なく、唯一心臓に負担がかかることがあるので、心臓超音波検査を行います。「息苦しい」などの症状が出た場合は、主治医に相談しましょう。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)