12月11日は、「いに(12)いい(11)」(胃にいい)と読む語呂合わせから「胃腸の日」。この日を前に、「新・国民病、胃の不調の正体と負担をやわらげる方法」メディアセミナーが11月28日、都内で行われた。同セミナーでは、消化器のスペシャリストでアジア神経消化器病学会理事長を務める、川西市立総合医療センター(兵庫県)の三輪洋人総長が、「新・国民病」と評される現代人が抱える胃の不調の現状と対策方法を解説した。

■20代女性は72%

今年11月に発表された「第4回胃の不調実態調査」(2000人対象)では、胃の不調に悩む人が55・9%と、昨年より4・9ポイント上昇し、3年連続で前年を上回った。最も多く胃の不調を感じているのは、20代の女性で72%。今や胃の不調は「新・国民病」と呼べるほどになっている。

一般社団法人日本生活習慣病予防協会が発表した医師を対象とした調査でも、約65%が胃の不調を訴える患者が増加していると回答。日本人の新たな国民病になる疾患「新・国民病」として、「胃の不調」(機能性ディスペプシア)が1位に選ばれた。

機能性ディスペプシアは、がんや胃潰瘍など、見て分かる異常がないにもかかわらず、慢性的に胃の不調が続く疾患で、日本における潜在的な患者数は、1000万人程度と推定される。三輪総長は、「胃の不調はQOL(生活の質)や健康、労働生産性を低下させることが報告されています」と説明した。

■「胃脳相関」存在

さらに、最新の研究結果で、「胃」は脳との関係が深いとされ、脳へ情報伝達する胃と脳のネットワーク「胃脳相関」の存在が、近年注目されている。胃の不調は、胃の機能(胃酸の分泌、胃の運動、胃の知覚)の変調を感じることに起因する。そして、胃の機能をコントロールしているのが自律神経なのだ。自律神経は、もともと自分を守り、生命を維持する神経で、不安や恐怖などのストレスによって敏感に影響を受けやすい。実際に胃の不調を訴えている人は、人間関係、仕事、感染症、経済的な不安やストレスを感じている割合が高いというデータが出ている。

自律神経の働きは薬剤で調節できず、それゆえ胃の不調に対する薬剤治療の効果は高くないといわれる。では、どうしたら良いのか。

■腸内細菌を育てる

三輪総長は「ストレスをやわらげること。生活習慣や食事の改善など、自律神経を安定させることが重要です」と言う。そして、自律神経を安定さるための方法を次のように示した。

(1)禁煙と適度な飲酒

(2)十分な睡眠を確保する 

(3)適度な運動を行う

(4)決まった時間に寝て起きて、決まった時間に食事を摂る

(5)胃腸を活発にする食事(良い腸内細菌を育てる)

中でも(5)では、食物繊維や発酵食品、乳酸菌などを摂ることを推奨。特に、Lactobacillus gasseri OLL2716(LG21乳酸菌)は、高いレベルの研究がなされており、同乳酸菌が入ったヨーグルトを用いた実験では、胃排出時間が早くなり、同時に胃の調子も改善したという結果が発表されている。

三輪総長は「乳酸菌には胃の負担をやわらげる機能があり、習慣として食べることで、この実験結果が反映できます」と強調した。

食生活とともに、胃の負担をやわらげることを改めて意識してほしい。

◆胃腸の日(12月11日) 02年に日本大衆薬工業協会(現日本OTC医薬品協会)が制定。12(いに)と11(いい)で「胃にいい」という語呂合わせで、年末の忘年会での暴飲暴食を抑えたり、胃腸健康管理の大切さなどを啓発することが目的。1年を振り返り、胃腸へのねぎらいの気持ちも込められている。

◆三輪洋人(みわ・ひろと) 1982年鹿児島大医学部卒業。川西市立総合医療センター総長、兵庫医科大学名誉教授。専門は消化器内科一般、消化管疾患、特に逆流性食道炎(胃食道逆流症)、機能性ディスペプシアなど。