「脳腫瘍」と聞いてどんな疾患かわかりますか。これが「脳卒中」だと、皆さんイメージしやすくなると思います。脳腫瘍は、頭蓋骨の内側に発生する腫瘍の総称で、10万人に3~4人しか発症しません。2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなる、と言われるがんに対して、脳腫瘍は少ないと思われています。

しかし、脳腫瘍は決して少なくありません。脳腫瘍には原発性と転移性があり、がん患者の10人に1人はすでに脳に転移があり、つまり国民の20人に1人が脳腫瘍ということなります。実は、脳腫瘍はごく身近な病気なのです。

ある日、60代のA男さんが「頭が動くと痛い」「せきもよく出る」と訴えて、私どもの脳神経外科を受診されました。頭痛があって受診される患者さんは多い。そこで、MRI(磁気共鳴画像法)検査を行いました。すると、画像に映った小脳、脳幹などを含めて全部で腫瘍が7つあったのです。突然、「頭に腫瘍がみつかりました」といわれると、誰もが頭が真っ白になると思います。A男さんも不安いっぱいの面持ちで帰られました。

翌日、A男さんの全身検査をすると、せきの原因である肺がんが見つかりました。A男さんは肺がんが原発で、それが脳に転移した段階で見つかったのです。肺がんだから呼吸器内科で必ず見つかるわけではなく、転移してから見つかるケースも少なくありません。

A男さんの治療は、まずは転移性脳腫瘍の治療--定位放射線治療のガンマナイフで全ての腫瘍に照射して治療しました。その後、肺がんには化学療法で対応。がんが転移していると「もう終わり」と思うでしょうが、A男さんのように日帰り治療で帰ることができる患者さんは、生命が助かります。それができる脳疾患の治療が“ガンマナイフ”なのです。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)

◆林基弘(はやし・もとひろ)1991年(平3)群馬大医学部を卒業し、東京女子医科大脳神経外科入局。99年フランス留学、仏脳神経外科専門医師資格取得。15年に国際定位放射線治療学会長など歴任し22年より現職。最新ZAP-Xを含む1万4000件の豊富な治療経験を持つ。「NHK WORLD」「世界一受けたい授業」などメデイア出演多数。