前回は「転移性脳腫瘍」が先に見つかり、その後で原発の「肺がん」が見つかった患者さんのケースを紹介しました。そのA男さん(60代)は、定位放射線治療のガンマナイフで7つの腫瘍すべてに照射して治療し、生命は助かりました。

A男さんのように原発がんより先に、転移したがんが見つかることもあります。脳への転移の多いがんは肺がん、乳がん、消化器系がんなどです。今回は乳がんが脳に転移した会社員のB子さん(50代)のケースを紹介します。

B子さんは「軽度の頭痛」を訴えて私どもを受診されました。話を聴くと、2年前に乳がんで手術をされていました。転移性脳腫瘍を疑い、すぐにMRI(磁気共鳴画像法)検査を行うと、転移性脳腫瘍が10個程度見つかったのです。そこで、B子さんと治療について話し合いました。標準治療は放射線による「全脳照射」ですが、それは少し前の話で、今はいろいろ治療選択ができます。また、全脳照射をすると、2年後くらいに認知機能障害が約半分の人に起こります。「1人息子が大学に進学したばかりなのです。学費も稼がないといけない。今、最も大事にしたいのは自分の意思で動ける自由です。だから認知機能温存を最優先に治療をしたいのです」-これがB子さんの考えでした。

B子さんの納得を得て、がんを狙い撃ちするガンマナイフでの治療を行いました。途中で転移性脳腫瘍が増加し、最終的に治療をした転移性脳腫瘍は全部で119個に。合計8回のガンマナイフでそれをすべて狙い撃ちし、治しました。しかもすべて日帰りで行いました。がんが脳に転移したからといってあきらめることはありません。治療の選択肢は増えています。だからこそ、B子さんのように最善の治療を選択してください。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)