連載の第1回、2回で「転移性脳腫瘍」の患者さんのケースを紹介しました。第1回のA男さん(60代)は転移性脳腫瘍が7つ、第2回のB子さん(50代)は119個ありました。それを治したのが、がんをピンポイントで狙って攻撃する定位放射線治療の「ガンマナイフ」です。しかし、がんが脳に転移していると、頭が真っ白になってトンネルの出口が見えない状況で受診される方が多いのです。

ガンマナイフは脳に病気があっても、頭を切ることなく治せるメリットがあります。頭が真っ白になって受診された患者さんに、「頭を切らなくても大丈夫です」と話しますと、そこで患者さんは安心されます。

頭を切ることがないので、歩いて受診できる患者さんであれば、ガンマナイフは日帰り治療です。患者さんの状況によって多少治療時間は異なりますが、短い人で20~30分ほど、たいていは1~2時間ほどで終わります。日帰りなので、翌日から普段通り仕事ができます。

このようにガンマナイフは脳神経外科の手術の中で、最も侵襲度の低い治療です。これが標準治療の放射線の「全脳照射」だと、何度も照射を続けるので1カ月程度はかかります。そうすると脳の治療を優先したことで、例えば原発がんの肺がんの治療が遅れてしまうことがあります。患者さんにすると肺がんの進行が心配で不安ばかりの日々を過ごすことに-。

だから、ガンマナイフ治療は患者さん自身の人生を元に取り戻すことが、それも短時間でできます。頭を開けずに、その人の人生を手術できるということです。私はそのように思って患者さんと向き合っています。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)