定位放射線治療「ガンマナイフ」の適応疾患の1つが「脳動静脈奇形(AVM)」。これは、生まれながらに脳動脈と脳静脈が直接つながっている疾患で、年間2~4%の方が出血を起こし、大出血の場合は命を落とすこともまれではありません。

そのAVMに、私は全身全霊を傾けガンマナイフ治療を行っています。それは、私が医師になって1年目のときに、小学校の時の無二の親友が北海道で医師の1年目を迎えていました。「研修が終わったら実家で会おうね」と話し、楽しみにしていたのです。ところが、その1年目に2回の脳出血を起こして亡くなりました。当時、AVMの手術は24時間かかる時代でした。あとで知ったのですが、1回目の出血時にAVMと診断がつき、すぐに手術を受けました。しかし、脳動静脈奇形の場所が奥深くにあり、頭を開けただけで閉じざるを得なかったのです。その後、再度出血が起き亡くなりました。

それを知った1993年、偶然にも東京女子医科大学病院にガンマナイフが導入されたのです。そして、教授から「林君、ガンマナイフをやってみるか」と言われ、私はすぐに「やります」と。なぜ即決したのか-。それは、「ガンマナイフはAVMも脳腫瘍も治せる機器」と1990年に日本に初めてガンマナイフが導入された時に聞いていたからです。亡くなった親友が、私に“ガンマナイフ治療をやれ”と言っているように思えました。

AVMの治療はグレード1~5で決められていることは、前回紹介しました。グレード3はガンマナイフで治るようにしました。手術ができない4、5であっても治療を続けてきました。結果、時間は多少かかりますが、4は3と同じレベルで治るようになりました。ただ、グレード5はまだ治る人は少ない。4までは治る時代になったことは、昨年の日本脳神経外科学会で、ついに発表することができました。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)