「脳動静脈奇形(AVM)」は、生まれながらに脳動脈と脳静脈が直接つながっている疾患です。今回は女の子、A子さんのケースをお話しします。

A子さんは11歳の時に脳出血を発症し、半身まひになりました。出血部の血管を塞栓(そくせん)するカテーテル手術で対応したものの、完治には至りませんでした。実際、カテーテル手術でのすべてを塞栓できる確率は20%程度。ただ、まひの方は賢明なリハビリで良くなったのです。その時に、脳出血がAVMによるものであることがわかりました。

お子さんの出血は大人と違って高血圧性ということはほとんどありません。脳動脈瘤(りゅう)やAVMであることが多く、それはMRI検査などを行えばすぐに診断はつきます。A子さんの状態は、AVMの難易度を示すスペッツラー分類の最高難度の次の段階「グレード4」。手術はできない状態でした。

その病院の主治医はお子さんのお母さんに、「お子さんの病気はもう治りません」と。お母さんは泣くだけ泣いた後から、必死でAVM治療をしてくれる病院を探したのです。そして、お母さんは定位放射線治療の「ガンマナイフ」でしか治せないと判断し、私のところに来られました。そこで、A子さんのAVMでの状況を聞き、私は「治します! 信じていいですよ」とお母さんに言いました。

A子さんの状態をしっかり調べ、ガンマナイフで治せると判断し、治療を開始しました。A子さんは金属製の枠で頭を固定され、筒状の機器に頭を入れて横たわりました。そして、A子さんのAVMの患部に192本のガンマ線を集中照射しました。これを、数年の間隔をあけて2回行いました。その間、半年ごとに状態を診察し、17歳くらいのときに完治となりました。17歳の受診のときに、A子さんは「私は脳外科の看護師になりたい」と話してくれました。その思い通りに、A子さんは看護師になりました。夢をかなえたのです。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)