病巣を狙い定めて攻撃する「ガンマナイフ(定位放射線治療)」。前回までは、そのガンマナイフが適応になっている「転移性脳腫瘍」「脳動静脈奇形(AVM)」「髄膜腫」を取りあげてきました。今回からは「聴神経腫瘍」を知ってもらうために取り上げます。

聴神経が腫瘍化した聴神経腫瘍。その聴神経は内耳道の中で、音を伝える「蝸牛(かぎゅう)神経」とバランスをつかさどる「前庭神経」で構成されています。腫瘍化するのは、主に前庭神経の鞘(さや)です。つまり、電線はビニールで包まれていますが、まさにそのビニールのところが腫瘍化しているので、学術的には「前庭神経鞘腫(しょうしゅ)」と呼ばれています。

聴神経腫瘍の患者さんの初発症状は、「片側の耳の聞こえが悪い」「耳が詰まった感じ」など聴力障害(突発性難聴も含む)で発見されます。そのほか、「耳鳴り」「めまい」を合併していることもあります。

聴神経腫瘍が疑われる場合は、MRI検査やCT検査が行われます。そして、治療には次の3つの選択肢があります。「経過観察」「手術」「ガンマナイフ」ですが、すぐに手術ということはなく、多くは経過観察と判断する医師が多いようです。しかし、私たちは<1>「顔面及び聴力がよく保たれている患者さん」に限っては、なるべく早い段階でガンマナイフを受けることを勧めています。そのほかに、ガンマナイフが適応となる患者さんは明確で、<2>「50歳以上」、<3>「腫瘍が重要な組織の脳幹に達していない人」です。この3つに入る人は、最初から“頭を切らずに治すガンマナイフ治療”を行ってよい、と私たちは考えています。これにより“早期発見・早期治療”が目指せるのです。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)