今回からは、脳腫瘍の中で3番目に多い「下垂体腺腫」を取りあげます。下垂体は鼻の付け根の奥、脳の底の部分にある1センチ程度の小さな器官で、成長ホルモンなどホルモンの中枢です。そこに発症する良性腫瘍が下垂体腺腫です。

その下垂体腺腫には「機能性下垂体腺腫」と「非機能性下垂体腺腫」の2つがあります。機能性下垂体腺腫は過剰にホルモンを出し過ぎてしまうので、さまざまな症状を引き起こします。成長ホルモンの過剰は手指、脚、顔、身長などの肥大を起こします。また、乳汁分泌ホルモン(プロラクチン)の過剰は、月経異常や乳汁漏出などが見られます。副腎皮質刺激ホルモンの過剰は、クッシング病を-。それは、丸く赤ら顔になるなど見た目からわかる症状のほか、糖尿病、高血圧、心臓病、脳卒中などを起こします。これは腺腫が小さくても見つかるという特徴があります。

一方、非機能性下垂体腺腫はホルモン分泌をしないタイプです。だから、知らない間に腺腫は大きくなります。ただ、大きくなると近くにある視神経が交差する視交叉に腺腫がぶつかるので「両耳側半盲(りょうじそくはんもう)」の起きることが多い。両耳側半盲は、視野の両側の外側が見えにくくなるのです。最近は、脳ドックで症状のない段階で見つかるケースもあります。

この下垂体腺腫の治療は、基本的に「ガンマナイフ」が最初から適応になる患者さんはいません。まずは「手術」-。それは、開頭することなく鼻の穴からアプローチして、下垂体の入った骨を下から穴を開け、腺腫を摘出するのです。これが「ハーディ手術」で、副鼻腔(びくう)炎の手術が行われていますが、その延長の感じだと思ってください。

そして、下垂体腺腫の手術を行って、その後に腺腫が「残存する」「再発する」ということがあると“頭を切らずに治すガンマナイフ”の適応になります。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)