脳腫瘍の中で患者数が3番目に多いのが「下垂体腺腫」。その治療は、まずは「手術」です。下垂体は鼻の付け根の奥にあるので、開頭することなく鼻の穴からアプローチして下垂体の入った薄い骨を開けて行う手術。その下垂体腺腫の中でも、両脇に位置する海綿静脈洞内に進展している病変が、最も治療が難しいことで知られています。この場所は、手術も「ガンマナイフ」もどちらの治療も難しい。

海綿静脈洞は脳を還流した血液の一部が流入し、心臓に戻っていきます。その壁に少し穴を開けるだけでも血液がどっと出ます。さらに、中にある内頸(けい)動脈を傷つけると、激しい出血を起こし、死に至ることもあります。

さらに、そこには脳神経がクモの巣のように張り巡らされ、腺腫と血管と神経が巻き込まれています。10年前までは「手術は無理、ガンマナイフもすべてに照射すると、複視などの脳神経まひが出てしまいます」と。それでもガンマナイフしか頼る治療がなかったのです。

それが今、ガンマナイフでの治療は大きく変化しました。超薄スライスMRIにおける独自の特殊撮像法により神経を1本1本描出することができ、各脳神経を0・1ミリ単位で避けながら、動脈にも過剰な照射を避けながら、海綿静脈洞内の線種をすべてたたくことができるようになったのです。これにより、後遺症を作ることなく自信をもって治療ができています。

この疾患の患者さんは少ないように思われますが、私たちは日常茶飯事に診ています。「大丈夫、治りますよ!」というと、その時点で、皆さんの不安は解消します。中には感極まり涙を流される方もいます。明日が見えるようになったからです。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)