病気は多くの人が発症するものばかりではなく、患者数の少ない疾患もあります。そういう患者さん、家族、親戚、友人などは情報がなくて困っているケースが少なくありません。今回は、指定難病の「神経線維腫症2型」と「ガンマナイフ治療」について紹介します。

神経線維腫症2型は、遺伝により「神経鞘腫(しょうしゅ)」「髄膜腫」など多数の脳腫瘍が発症します。その中でも、両方の耳に聴神経腫瘍が発症する特徴的な疾患です。

「右耳の聞こえが悪い」と訴えて患者さんが受診され、MRI検査を行うと両耳に聴神経腫瘍が。さらに、他の神経鞘腫や髄膜腫もできていたこともありました。

この両耳に聴神経腫瘍があり、一方は聴力が落ち、他方は正常という場合。全世界中の脳神経外科医に「どっちの腫瘍から治療をしますか?」と聞くと、「聴力が落ち始めた方から治療をします」と応えます。これが「様子を見ましょう」では、腫瘍が大きくなると正常な耳も音はどんどん聞こえなくなります。一方、患者さんに希望を聞くと、「いつまでも自分の耳で聞いていたい」と。手術をすると音を残せる可能性は少ない。だからこそ、私たちは聞こえの良い側から工夫をして独自に治療にあたってきました。

私たちは患者さんの声に応えるために「聞こえの問題がない耳からガンマナイフで治療しましょう」と、20年間一貫して患者さんに言ってきました。結果、通常は50%温存のところ、12人中11人(90%温存)が成功。温存できなかった1人は、治療した8年後に中耳炎で聞こえが落ちたのです。これは神経の内部にある「軸索」という神経伝達を行う部分が壊れる前に、運よくガンマナイフで腫瘍の成長を止められたからだと考えています。知り合いに神経線維腫症2型の方がいたら、ぜひこういう治療法があることを伝えください。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)