早期の大腸がんは10センチでも内視鏡治療の「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」ができます。ところが、早期大腸がんでも、腫瘍の頭部分が巨大なケースは線維化が強く、その下にヒアルロン酸を注入して浮きあげようとしても浮き上がりません。早期大腸がんであっても、ごくごく一部の内視鏡医にしか治療できません。それも、治療に5、6時間もかかり、大腸に穴が開く穿孔(せんこう)のリスクも高いのです。このような場合は、内視鏡治療だけにこだわることはありません。外科手術では「腹腔(ふくくう)鏡手術」「ロボット手術」が行われ、2時間程度で手術は終わります。

ただ、内視鏡治療にこだわった方が良い部位もあります。それは肛門に近いところの直腸です。直腸で先ほどの大腸がんであれば、外科手術を行うと「人工肛門」「一時的人工肛門」になります。人工肛門にならなくても、外科手術で直腸を切除すると「生殖機能」「排便機能」などが障害されることがあります。すると、頻繁に便をしたくなるなど、生活の質が低下。これが内視鏡治療で済めば、これまでと何ら変わらない生活を続けることができます。

肛門に近い直腸の早期がんの場合は、内視鏡治療にこだわった方が良いと思います。内視鏡であれば神経をキズつけることはありません。この時は、大腸ESDを年間200例以上行っているトップクラスの病院を探して受診する価値は十分にあります。万が一、うまくいかなかったとしたら、追加手術が必要になります。結果がそうであったとしても、自分自身納得して選択したので、その時は諦めがつくと思います。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)