野球手帳

「フェアプレー弾」花咲徳栄・菅原は引退後でも幸運

101回目の夏も、甲子園では筋書きのないドラマの数々が生まれた。花咲徳栄(埼玉)の菅原謙伸捕手(3年)は明石商(兵庫)との2回戦で、死球を辞退した直後の球を本塁打にした。「フェアプレー弾」で話題になり、米国のメディアでも紹介された。残暑厳しい埼玉に、そんな「いい人」を訪ねた。

甲子園での「フェアプレー弾」が話題になった花咲徳栄・菅原(撮影・金子真仁)
甲子園での「フェアプレー弾」が話題になった花咲徳栄・菅原(撮影・金子真仁)

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甲子園から帰っても、夏休みは3日間だけ。菅原は大学野球を志し、練習を再開していた。後輩たちのじゃまにならぬよう、外野フェンス沿いでドラフト候補・韮沢雄也内野手(3年)らとダッシュを繰り返す。

スガワラ・ケンシン。悠久の歴史を感じさせる名前は、意図せず令和の世に広まった。明石商の最速151キロ右腕・中森俊介投手(2年)の抜けた変化球が左腕を直撃。死球出塁の権利を得たのに「少し前のめりでよけてしまった。自分が悪い」と辞退。球審、バッテリー、明石商ベンチに頭を下げ、直後の直球に「とにかく何とか当てたい」とバットを出したら、それが公式戦初本塁打になった。

「神様が打たせてくれたのかも」と自身も驚いた1発は「フェアプレー弾」と話題になり、動画サイトYouTubeにアップされた。再生回数は450万回超に。さらに、米国メディアの「USAトゥデイ」「スポーツ・イラストレイテッド」などのサイトでも、その姿勢がたたえられた。「なんだか、自分じゃないような感じです」と不思議な気持ちで“全米デビュー”を眺めている。

「感動をありがとう」はじめ、たくさんの声が届いた。正直者とも称賛されたが「僕だってウソをつくことはあります」と言う。最近はどんなウソを? そう聞くと「えーっと、あれ、何かウソついたっけな~?」と30秒くらい首をかしげ、結局出てこない。

大舞台で活躍しながら「少し気弱なところがある」と、自己評価は決して高くない。でも今回、うれしかったことがある。インターネット上で「ご両親の育て方が良かったんですね」という書き込みを見た。「親にも感謝したいな、とあらためて思うことができました」。岩手・一関の実家に戻った3日間、これまでの御礼をしっかり伝えた。

ご褒美は、その後も続いているのだろうか。「最近のいいことですか…」と今度は10秒ほど記憶をたどり「あっ!」と思い出した。「おとといです。一関の川崎というところで花火大会を見に行って、降水確率50%で無理かなと思っていたんですけど、ちょうど始まる時に雨がやみました」。まだまだツキがある。

そして、さすが捕手。浮かれてはいけないことは重々理解している。「もう一度気を引き締めて、野球に真摯(しんし)に向き合っていきたいです」。後輩たちの練習を見つめながら誓った。【金子真仁】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)

11日、花咲徳栄対明石商 7回表花咲徳栄1死、体に投球を受けるも死球ではないことを主審に伝える菅原
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 野球をこよなく愛する日刊スポーツの記者が、その醍醐味、勝負の厳しさ、時には心が和むようなエピソードなど、さまざまな話題を届けます。

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