MLBが間もなく導入する新ルールについて、米球界でかんかんがくがくの議論が巻き起こっている。投手が粘着性のある異物を指につけて投げる行為を取り締まるというルールだ。

異を唱えているのはパドレスのダルビッシュ有投手(34)だ。MLBでは昔から滑りやすく、握り難い球を公式球にしていることを指摘し「ボールに問題があるってMLBはわかってんのにお金のためかずっと滑りまくるボールを提供してくる。わかってるんやからそっちを先にどうにかしましょう」と、ツイッターで問題提起をしている。

米メディアでも、公式球を滑らないものに変えるべきと論じるものもある。アスレチックスのボブ・メルビン監督は「適切な線引きをするのは難しい。たとえばまったく汗をかかないようなナイターの試合で、ロージンは何の役にも立たない。何らかの滑り止めは必要だ」と、やはりボールに問題があることを指摘していた。

打者側の意見は、賛否両論だ。投手が粘着物質を使用することはまったく気にしないという意見もあれば、ツインズのジョシュ・ドナルドソン内野手(35)のように激しく反対する選手もいる。同内野手は「粘着物質を使用することはチート(不正)であり、パフォーマンス強化行為。イニングごと、新たな投手が試合に入るごとに取り締まりを行うべき。そうすれば不正はなくなる」と主張している。ただし「打者は実際のところ、日焼け止めクリームや松やにはどうでもいいと思っている。それはパフォーマンス強化物質とは違う。僕が言っているのは、強力接着剤のようなパフォーマンス強化物質のこと。それはもはや、コントロールを向上させるためというレベルのものではない」と意見している。

ロッキーズのチャーリー・ブラックマン外野手(34)は「打者は本塁打ばかり狙っているから三振が多いと批判されることにはうんざりしている。三振するのは、投手が97マイル(約156キロ)のスーパーシンカーや粘着物質で変化し回転数が増した真っすぐを投げるからだ」と主張している。メルビン監督やこれら打者の意見を見ると、粘着物質にも許容できるものと、明らかに一線を越えていると思わせるものがあるようだ。

ダルビッシュは、MLBの飛ぶボールやフライボール革命などの影響でこれまで投手が苦労してきたことに触れ「みんなラプソードとか使って研究して良くなったのに打者が打てなくなったらこれ…」とも指摘している。オフシーズンになると休む間もなく投球の研究に没頭している様子は、ダルビッシュら投手のSNSからも伝わってくる。

懸命に研究しレベルアップした結果としての今の投球があることも、MLBはもっと尊重していいのではないか。粘着物質の取り締まり導入は、まずはどんな物質が投球にどんな作用をもたらすのかを細かく分析し、何がだめで何がOKなのかをもっと明確にした上で始めれば、まだ納得できるのではないだろうか。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)