レッドソックスが吉田正尚外野手(29)を5年総額9000万ドル(約122億円)の大型契約で獲得したことは、米球界を大いに驚かせた。球界関係者からは守備を懸念する声もあり、レッドソックスの高評価に「ショッキングだ」の声も出たほどだ。
吉田が期待通り成功できるかどうかと考えたとき、レッドソックスが過去に成功した独特のスカウティング手法が思い出される。例えば2011年のドラフト5巡目全体172位で指名し獲得したムーキー・ベッツ外野手(30=現ドジャース)。18年MVPに輝き今やメジャー屈指の外野手だが、当時は身長170センチ台と小柄であること、体格の割にはバットが大振りだったことなどが懸念され、どの球団も上位指名に二の足を踏んだ。
だがレッドソックスは、ひそかにベッツを高く評価していたという。それは、MLBでいち早く取り入れていた「ニューロスカウティング」の手法を用いたことが大きかったようだ。
ニューロスカウティングは、ニューロサイエンス(神経科学)を駆使した選手の評価方法で、選手がどれだけ素早く状況を判断し行動を起こせるかを測るもの。ベッツは高校の昼休みの教室でレッドソックスのアマチュア担当スカウトからこのテストを受け、驚くほど優秀な数字をたたき出していたという。
レッドソックスに入団したベッツは、3年後の14年6月にメジャーデビュー。3年目の16年には3割、30本、100打点を達成し、18年はMVPに輝きチームのワールドシリーズ制覇に貢献した。ドラフト同期はヤンキースのエース右腕コール(全体1位)、エンゼルスのレンドン内野手(同6位)、メッツのリンドア内野手(同8位)、ブルージェイズのスプリンガー外野手(同11位)ら大物ぞろいだが、それでもベッツが当時172位だったことを考えると誰よりも大成功の選手獲得だったといえる。
そのレッドソックスが吉田獲得へ大きくかじを切ったきっかけは、昨年秋の球団幹部らによる来日視察だったと、米スポーツメディア「ジ・アスレチック」が昨年12月24日付の記事で伝えていた。楽天モバイルパーク宮城で左翼を守る吉田を左翼側の巨大な観覧車の頂上から視察した時、左翼線ぎりぎりの難しい打球を捕球するプレーを目撃し、同時にスマホで動画を撮り、持ち帰って分析した。それは、吉田を獲得する上で鍵になるプレーだったそうだ。恐らくそこから、吉田の状況判断と動きの素早さを確認することができたのではないだろうか。ベッツを特別に評価したように、吉田を特別に評価した理由が、そこにあったのではないだろうか。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「水次祥子のMLBなう」)




