野球の醍醐味(だいごみ)を考えると、違和感が拭えない。MLBは6日(日本時間7日)、今季からバッテリー間のサインを伝達するため、電子機器の使用を認めると発表した。バッテリー以外に3人の野手も使用できる。機器は「PitchCom」(ピッチコム)と呼ばれ、捕手が手首付近につけた機器のボタンを押して球種とコースを送信し、投手らは帽子の中に入れた受信機で音声を聞く。サイン盗み対策としてテスト的に、オープン戦でも使用されていた。

5日(同6日)のドジャース戦に先発したエンゼルスのマイケル・ロレンゼン投手(30)は「ピッチコム」を使用し、捕手のスタッシとサインのやりとりを行った。試合後、「初回はリズムが悪くなって、やめようかと思ったが、最終的には非常にいい感じだった」と振り返った。

サイン盗み防止や試合時間の短縮などメリットはあるが、サイン交換は“機械的”になる。伝達されるサインについて、ロレンゼンは苦笑いで「直球・低め・外、といった感じ」と明かし、Siri(シリ=音声操作サービス)のような声だったという。さらに、「サインが聞こえなかった時や確認したいことを伝えるのに、捕手がイヤホンをつける必要もあると思う」と改善点も指摘した。

サイン交換は、野球の「間」を感じられる面白みの1つでもある。首を振って投手が選択した球種が打たれたり、捕手との呼吸が合わず、リズムが崩れることもある。中には、サイン交換を見る時のルーティンがある投手もいる。ドジャースに電撃移籍した守護神キンブレルは、腰をかがめ、右肘を上げながら、サインをのぞき込む。その姿はファンを楽しませ、モノマネをする野球少年もいる。

18年のアストロズや、19年のレッドソックスで電子機器を利用したサイン盗みが発覚した。今回のピッチコム導入は、テクノロジーにテクノロジーで対抗した形だ。だが、結果には表れない微妙な「間」が、野球の勝敗を左右することもある。それは、機械では出来ない。開幕戦、もしくはそれ以降で、エンゼルス大谷翔平(27)が採用する可能性もある。注目される新器具であることは間違いないが、“人間的”なサイン交換が失われるとしたら、寂しさを感じざるを得ない。【MLB担当・斎藤庸裕】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「ノブ斎藤のfrom U.S.A」)