口は災いの元なのか、MLBのプレーオフで「アメリカの加藤哲郎」が現れた。
9日に行われたブレーブス-フィリーズのナ・リーグ地区シリーズ第2戦。ブ軍が5-4と1点リードで迎えた9回1死一塁、抑えのイグレシアス(元エンゼルス)がカステラノスに右中間への大飛球を打たれた。これを中堅手のハリス(2世)がフェンスにぶつかりながら好捕。内野へ中継したボールは乱れたのだが、三塁手のライリーがうまくさばいて一塁へ転送。飛び出していた一塁走者のブライス・ハーパー(30)は戻ることができず、併殺で試合終了となった。中-三-一の併殺で試合終了は、ポストシーズン史上初だった。
「軽口事件」が起きたのは、試合後のロッカー室だった。ブレーブスのオルランド・アルシア内野手(29)が余計なことを口走った。「ha-ha, attaboy, Harper」。日本語に訳すと「ハハ(笑い)いいぞ、ハーパー」。嘲笑を何度も繰り返していた。これがハーパーの耳に入ってしまった。
場所をフィリーズの本拠地に移した第3戦。ハーパーは怒りに燃えていた。「チームメートが教えてくれて『これからどうするんだ』って聞かれたよ」。1-1の3回2死一、三塁、右翼へ特大の勝ち越し3ランを打ち込んだ。二塁を回ると、遊撃を守るアルシアをにらんだ。言葉は発しなかった。
復讐(ふくしゅう)は続く。6-1となった5回、中越えへ3号ソロ。打球はハリス2世の頭上を超えた。ハーパーは二塁を回ると、またもアルシアをにらみつけた。フィリーズの球団公式X(旧ツイッター)は「Atta-boy, Harper」とたたえた。
この光景、89年の日本シリーズを思い起こさせた。近鉄は3連勝で王手をかけ、勝利投手となった先発の加藤が「巨人(打線)は迫力がない。(パ最下位の)ロッテの方が怖い」と発言。ここから潮目が変わり、怒った巨人ナインは3連敗から4連勝で日本一に。第7戦で加藤から先制本塁打を放った巨人駒田徳広は「ばーか」とマウンドの加藤に向かって叫んだ。
アルシアは試合後、「彼(ハーパー)はどこでも見たいところを見ることができる」とションボリ。そして「クラブハウスでは思ったことを何でも口にしていいと思っていた。彼に聞かせようなんて思っていなかった」と弁解した。
この試合で、ハーパーは「コーチ・プライム」と書かれたTシャツを着て、ハーパーとともに2本塁打を放ったカステラノスは「プライム」と書かれたパーカーを着て球場入りしていた。「コーチ・プライム」はMLBとNFLで活躍し、現在コロラド大学でフットボールのヘッドコーチを務めているディオン・サンダースのことだ。現役時代のニックネームが「プライム・タイム」だった。
現役時代から派手な言動で知られるサンダースは今シーズン前、ライバルのコーチからの批判に対して「彼らは私を個人攻撃してきた」と言い返していた。
ハーパーとカステラノスはともに、サンダースのファンだからと、服装を選んだ理由を語った。ハーパーはサンダースがかつて、相手のブレーブスに所属していたことに触れ「引き返してシャツを脱ぐべきだったかもしれない」と笑いながらも、アルシアの「個人攻撃」に強烈な仕返しを見舞い、ご機嫌だった。
フィリーズはこの試合から2連勝。両リーグ最多勝のブレーブスを下して、地区シリーズを突破した。【斎藤直樹】
(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「斎藤直樹のメジャーよもやま話」)





