メジャーの「サイン盗み疑惑」が深刻な事態となっている。昨年11月、敏腕記者の告発に端を発して調査が始まり、アストロズ、レッドソックス、メッツが監督を解任。「クロ」が確定したア軍には、500万ドル(約5億5000万円)という罰金が科された。収束の気配を見せず、長いメジャーの歴史でも類を見ないスキャンダルに発展している。ここまでの経緯を整理する。

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今回のアストロズに対する処分が、厳罰か甘いか、を判断するのは簡単ではない。ただ、MLB機構が、徹底的な調査を進めたうえで、ア軍の組織的なサイン盗みを摘発した意味は少なくない。というのも、サインを伝達された選手を罰することなく、勝つために手段を選ばなかったア軍首脳陣の責任を問う姿勢は、球界全体への“イエローカード”に近い。

かつて“ステロイド禍”がまん延した2000年前後、某球団が所属選手に対し、組織的に禁止薬物を供給していたことは広く知られていた。ただ、筋肉増強剤などを使用するか否かは、最終的には選手個人の裁量。その後、摘発が進んだ際、機構側は調査書「ミッチェル・リポート」で個人名を明かした一方で、特定の球団を処罰することはなかった。そこに、MLB全体の組織を守ろうとする、いわゆる忖度(そんたく)のような空気があったことは否めない。

選手個々の成績が飛躍的に伸びれば、チームの成績も好転する。ただ、今回、機構側は選手個人の“サイン盗み利用”を糾弾せず、組織としての悪意を俎上(そじょう)に載せた。というのも、現実的に各選手はチームの方針に背くことは許されず、伝えられたサインを受け取るしかない。球種が分かっていれば、結果を残すために打ちにいく。つまり、スポーツマンシップに反する気持ちを抑えながらもバットを振る。その際の心の葛藤はいかばかりか。極論すれば、反論すら許されない選手が共犯になった可能性もある。

ア軍GM、監督への処罰は、不可思議なルール改正をはじめ迷走気味だった現機構としては、特筆すべき判断と言っていい。今回の裁定は、最新のテクノロジーに偏重し過ぎる現在の米球界が自戒を込めた、ひとつの警告と受け止めるべきではないだろうか。【MLB担当=四竈衛=20年1月14日ニッカンスポーツコム記事を再掲載】

<スキャンダル経緯> 

▽19年11月12日 米スポーツメディア「ジ・アスレチック」のケン・ローゼンタール記者が、アストロズのサイン盗みを暴く記事を掲載。15~17年にア軍に所属したファイアーズ投手(現アスレチックス)が本拠地球場のセンターに設置したカメラで相手捕手のサインを盗んでいたことを実名で告白。コーラ前レッドソックス監督らも関与と伝えた。

▽同14日 MLBがサイン盗み疑惑についてアストロズを調査すると発表。

▽20年1月7日 ローゼンタール記者が、今度はレッドソックスが18年にいかにサイン盗みのシステムを構築したか暴露する記事を発表し、MLBがレッドソックスも調査開始。

▽同13日 MLBが9ページに及ぶア軍調査結果を発表し、ヒンチ監督とルノーGMの1年間職務停止、500万ドルの罰金、ドラフト1、2巡目指名権2年間剥奪を発表。

▽同13日 ア軍オーナーがMLBの処分発表を受け、ヒンチ監督とルノーGMの解任を発表。

▽同14日 レッドソックスがア軍コーチ時代にサイン盗みを主導したコーラ監督の解任を発表。

▽同16日 メッツがア軍の選手時代にサイン盗みを主導したベルトラン新監督の辞任を発表。球団の説得によるもので、事実上の解任だった。