矢野阪神が正念場となる9連戦の初戦を取った。7番に降格した大山悠輔内野手(26)が先制の9号ソロ&ダメ押しタイムリーで勝利に貢献。5回には二塁走者・近本の動きを巡って、両軍が一触即発の事態となったが、元4番のバットで3位ヤクルトを黙らせた。首位陥落の可能性もあった一戦を制し、2位巨人に2・5ゲーム差とした。

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大山はダイヤモンドを回り終えると、満面の笑みでヘルメットを脱いだ。三塁側ベンチ前で坂本に頭を差し出し、「虎メダル」をかけられる。仲間の誰もが待ちに待った瞬間だった。

「しっかり自分のスイングを、というところで、1発で仕留められた。チームにいい流れを持ってこれて良かったです」

0-0で迎えた3回表。先頭で左腕田口の初球、内寄り高め139キロ直球をひっぱたいた。ライナーのまま、左翼ポール際に突き刺した。自身24日ぶりの1発は先制の9号ソロ。主将の復調アーチから虎は一気に勢いづいた。

4点リードの8回2死一、二塁では左腕坂本から痛烈な左前適時打。最後はダメ押しの1点をもぎ取り、「野球は最後まで何が起こるか分からないので」とホッと胸をなで下ろした。

「個人的にも、なかなか得点圏で結果が出ていないことは分かっていた」

試合前の時点で得点圏打率は1割9分1厘。勝負どころで効果的な1本を出せない日々。下降線をたどるチーム状況に、誰よりも責任を痛感していた。

「もちろん、置かれた立場は分かっている。自分がチームの流れを止めているところも分かっている。でも、下を向いていてはいけない。とにかく下を向かないように、どんな時でも前を向いて…」

今季から左胸に「C」マークを宿す。自身の浮き沈みに一喜一憂してはいられない。投手が苦しんでいれば声をかけにいく。仲間の成功には笑顔で返す。好調時も不調時もブレない姿に、チームメートの心が揺さぶられないわけがない。

新井打撃コーチは以前、そんな主将の姿勢に深くうなずいていた。

「人間って、ダメな時に本質が出るもの。たとえ無理をしているのだとしても、悠輔はすごいと思う」

4番を外れて7試合目、19年9月19日以来の7番先発で自身10戦ぶりの打点を記録。打順が下がっても懸命に振り抜いた大山の決勝弾が、チーム全体を鼓舞したのは言うまでもない。

首位陥落の危機の中、前半戦を締めくくる勝負の9連戦初戦をモノにして、2位巨人とのゲーム差は2・5に広がった。それでも主将に慢心はない。

「今日1日だけではなく、また明日、明後日と続けていかないと意味がない」

東京五輪期間突入まで残り8試合。たまった借りを返しにいく。【佐井陽介】

▽阪神矢野監督(7番に打順を下げた大山の決勝弾に) あれをファウルにせずにフェアゾーンに入れたというのは、いい打ち方をできているからやろうし。もちろん打順が下がって本人の気持ちの中では悔しさだったり、そういうのもあると思うんだけど。やっぱり悠輔がちょっと乗ってきてくれないことには、チーム全体としてもつながりがどうしても出てこない。いいホームラン、タイムリーだったかなと思います。

▽阪神井上ヘッドコーチ (大山は)奮起を促すっていう意味も含めての7番。うちが勝ちにいくためには、あいつの仕事をしてもらわなきゃいけないっていうのは、もう必要不可欠だから。(佐藤輝には)自覚をまた、ルーキーとか関係なく、あと8試合、やってもらわなきゃ困るよっていうようなメッセージに、俺らもするべきだなと思う。

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