プロ野球開幕から10日。日本一早いマジック点灯で知られる“猛虎の街”には、マジック「143」が掲げられたままだ。阪神を応援する兵庫・尼崎市の「尼崎中央3丁目商店街」に潜入し、恒例行事を支える同組合の寺井利一理事長(60)に話を聞いた。【取材・構成=中野椋】

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前代未聞だ。尼崎中央3丁目商店街のマジックが、「143」のまま変わらない。商店街の振興組合が街を盛り上げるために企画し、今年で20度目。熱狂的な虎党のうっぷんもたまっているのでは? と投げかけると、意外な答えが返ってきた。

寺井理事長 今回は、街は静かなんです。ここまで来ると、わらける人が多いんとちゃうかな。とことん、いくとこまでいったらええんちゃうか、と思っている人も多いんかな。

もともとは、勝っても負けてもマジックを減らしていた。プロ野球の正規ルールのものではなく、商店街仕様で、残り試合数を表示する。だから、シーズン序盤は自然と数字が減っていく。ただ、負けた時に減らすと「こんなんするから負けとんちゃうか!」と浴びせられたこともあった。いつの頃からか、「勝ったら、残り試合数分に減らす」というルールに変わったという。

寺井理事長 負けたら「アホ、ボケ!」って声が飛んでくる。マジックのボードを変えてる子が、メンタルやられてくるんですよ。それはそもそもの趣旨と違う。街を盛り上げるためにやっているのに、こうなっちゃうとダメ。だから勝った時に、残り試合数を表示することにした。もし明日(5日)勝ったら、一気に10個減らして残り試合数の133になる。負けている間は143のまま。シーズン終わっても143やったら、おもろいなって話してました(笑い)。それはそれでありちゃうかって(笑い)。

幼少期から阪神ファン。だからこそ、ジョークも愛の裏返しだ。

寺井理事長 (阪神愛は)染みついたものやね。負けてたら、頭では「応援せんとこ」って思っていても、やっぱり気になる。野球見て、一喜一憂することがファンにとっては大事なんちゃうかな。

勝っても負けても阪神の話題で盛り上がる。尼崎の街は、待望の1勝を待っている。

○…8年前からマジック数ボードの数を減らす役目を担うのが、ペットスタイル阪神尼崎店店長の尾島晴己さん(57)だ。今年はまだ、1度もボードを変えていない。「(マジックを)変えたら、お客さんもそれなりに注目すると思うんですけど、俺がやらかしてるみたいになるんかなって(笑い)。たまに、連敗の後もそういう視線を感じるんやけど、ドキドキやね」。5日に勝利すれば使用するマジック「133」のボードも準備OK。あとは、その時を待つだけだ。