ブレークの予感が漂う若手の十両力士が、思わぬ形で“横綱の弟弟子”になった。西十両4枚目霧馬山(23=陸奥)は目を丸くする。
「最初聞いたときは『え?』って思った。本当に急だったから」
先月16日に元関脇逆鉾の井筒親方が死去したことにより、横綱鶴竜(34)ら井筒部屋の力士3人と床山が陸奥部屋へ移籍。同じ時津風一門で連合稽古、巡業などで声をかけてもらったことはあったが、あまりの“急接近”に「今でもあんまり信じられませんね」と笑った。
23歳の霧馬山は、鶴竜と同じモンゴル出身。まだモンゴルに住んでいた小学生の頃、テレビで放送される大相撲中継で当時前頭だった鶴竜が相撲を取っていたことを覚えている。
「(幕内で)戦ってみたかったけど、教えてもらって強くなれる方がいいかな」
184センチ、129キロと細身ながら四つ身で力を発揮し、春場所の新十両昇進から着実に番付を上げて幕内を射程圏にしていた。そんなホープの上に、若手力士への指導に定評のある鶴竜が兄弟子として君臨する。
鶴竜も言葉に熱を込めた。
「(陸奥)親方に厳しく指導しろと言われているんでね。(霧馬山は)まだ体重で十両の上の方に負けているところはあるけど、いいものは持っていると思う」
7日に富山・砺波市で行われた秋巡業、朝稽古で霧馬山はおもりを持ったスクワットをするように指示された。「最初は軽いと思ったんですけど」と楽々とこなしていくが、回数をこなしていくうちに太ももが悲鳴。「もうめちゃくちゃきつかった。横綱にちゃんとした(スクワットの)やり方を指示されて、すごく効くんです」。
常に体を動かすことが性分だ。場所中も朝は20~30番相撲を取る。その日の取組が終わっても、動き足りない。部屋に戻っても40~50分、四股やすり足などの基礎運動で汗を流す。
「動いていた方が、体が軽く感じるというか、体のクスリになる」
稽古熱心な23歳は、最高のお手本が近くにいる今後を見据えて言った。
「横綱に教えられたことは他の人に言いたくないな。みんな強くなったら困るから」
強くなることを確信するように、期待に胸を躍らせて、霧馬山はちゃめっ気たっぷりに笑った。【佐藤礼征】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)