一発のパンチですべてが変わるボクシング。選手、関係者が「あの選手の、あの試合の、あの一撃」をセレクトし、語ります。元WBC世界スーパーフライ級王者川島郭志氏(50)の一撃は、4階級制覇したファン・マヌエル・マルケス(メキシコ)の「パッキャオ戦の右ストレート」です。4度目の対戦で倒し倒され、最後はマルケスがKOで初勝利となった一撃です。(取材・構成=河合香)

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▼試合VTR 12年12月に米ラスベガスで、WBO世界スーパーライト級王者マルケスが、前WBO世界ウエルター級王者マニー・パッキャオ(フィリピン)とウエルター級で対戦した。WBOが「過去10年間で最高王者」という認定ベルトをかけた決戦。両者は04年はフェザー級で引き分け、07年はスーパーフェザー級で2-1、11年の第3戦はウエルター級で2-0と、パッキャオが僅差判定も連勝していた。試合は3回にマルケスが右のロングフックでまずダウンを奪った。5回にはパッキャオが右ストレートでダウンを奪い返す。続く6回はパッキャオ攻勢も、ゴング寸前にマルケスが右ストレートで2度目のダウンを奪う。パッキャオは失神して6回2分59秒KO。まさに一撃KOで、マルケスが4戦目で初勝利となった。

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あの一撃は衝撃的だった。前のめりに倒れたパッキャオが、しばらくピクリともしなかった。5回にパッキャオがダウンを返して、やや有利になったかと思った6回。パッキャオが攻勢で、あの場面も右ジャブをついて出ていった。そこへマルケスが、きれいに右ストレートを決めた。

同じ相手との再戦は、互いに手の内を知っているので、大抵は慎重な戦いになるもの。3戦まではパッキャオが2勝1分けだったが、いずれもそう差はなかった。4度目の対戦に、互いに今度こそ決めてやろうと、実に攻撃的な試合だった。

マルケスは3回に左フックで最初にダウンを奪った。パッキャオはストレートで来ると思っていたと思う。そこへ外から打ち込んだ。最後もカウンター。マルケスのうまさも光った。

サウスポーに対しての左ボディーがうまい。下を打つふりをして上、上のふりで下と打ち分ける。パッキャオも下を意識させられた面もあっただろう。マルケスにはメキシコ人独特のリズムがある。日本人はとてもマネできない。あの体のうまさも強み。

パッキャオもリズムよく攻める。テクニックもあるが、階級を上げていくことでパンチ力優先になった。力ずくに変わっていった。そこにスキがあったのかも。それでもいまだ現役なのには驚かされる。

◆川島郭志(かわしま・ひろし)1970年(昭45)3月27日、徳島県海部郡海部町(現海陽町)生まれ。小さいころから父の指導を受け、海南高時代にインターハイ優勝。ヨネクラジムに入門し、88年に1回KOでプロデビュー。連続KO負けに左拳骨折の挫折を乗り越え、92年に日本スーパーフライ級王座を獲得し、3度防衛した。94年に世界初挑戦し、WBC世界同級王者ブエノ(メキシコ)からダウンを奪い、判定勝ちで王座を獲得した。97年に7度目の防衛に失敗して引退。通算20勝(14KO)3敗1分の左ボクサー。00年に東京・大田区内に川島ジムを開設した。

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