大相撲の貴乃花親方(46=元横綱)が25日、日本相撲協会に退職の届け出を提出したことを明らかにした。

 ◇  ◇  ◇

昨年10月20日、大阪・枚方巡業でのこと。当時、巡業部長だった貴乃花親方に「ちょっと話をしよう」と誘われ会場の体育館を出た。約1時間、熱弁を振るったのは、その2日後に控えた第48回衆院選の話題。「巨大勢力に立ち向かうって、すごいエネルギーがいるんだよね。俺はさあ…」と支持政党名は伏せるが、安倍自民党に対抗する野党の奮闘を熱っぽく話していた。協会内における自分の立ち位置と重ねていたのだろう。巡業と重なり期日前投票に行けないことにも、不満を抱いていた。世間一般と相撲界との背離を痛感すればするほど、反発力は増していったと思う。

それから1週間しないうちに貴ノ岩が被害者となる暴行事件が起きた。体制派に対するエネルギーが爆発したのは想像に難くない。騒動が勃発した九州場所中に電話で呼び出された際も「今は警察に全てを委ねているから話せないんだよ。話せ話せ、と言われてもこれだけは…。でも弟子だけは絶対に守りたい」と硬い表情で話す姿が印象深い。

善しあしは別に、自分の言動が与える影響力には無頓着だ。もう26年も前。当時の貴花田と宮沢りえの婚約が突如、表面化した。報道の引き金を引いたこともあり翌朝、事情説明に行くと「いいんだよ。むしろ早くマスコミに出て気が楽になったよ。隠れてコソコソって苦しかったから」と笑った。列島をフィーバーに巻き込んだ、まだ10代の頃からそうだった。そして今回の突然の辞職劇も同じ。周囲の騒ぎほど、本人はドラスチックにとらえていないはずだ。

ただ、やはり世渡りはうまくない。こうと決めたら一直線に走ってしまう。力士の転属を、この日の昼に突然、千賀ノ浦親方に伝えたという。現役時代は無鉄砲でも、将来の理事長候補として期待される師匠であれば、少し立ち止まって熟慮することが出来なかったか。残念でならない。目もくれず体制派に立ち向かう-。そんな一本気な性格にファンは魅力を感じるのだろうが、そのファンも置き去りにされてしまうほどの辞任劇だった。【渡辺佳彦】