年が明け、新春10日は「えべっさん」。商売繁盛の神様「えべっさん」の総本社、西宮神社(西宮市)では毎年1月10日早朝に神事「福男選び」が行われます。午前6時の開門と同時に境内をダッシュする場面が有名ですが、福男は速いだけではなく「強運」も必要とされます。川西市消防本部の渡部涼さん(26)は3年連続で「福男」を目指します。西宮神社によると、05年からトラブル防止のため、くじ引きを導入後、3年連続の福男はいません。渡部さんに話を聞くと、運気は上昇中? だそうです。

福男選びは江戸時代ごろ、自然発生的に始まったとされる神事。西宮神社によると、1940年ごろから、本殿に到着した順番に「一番福」「二番福」「三番福」と上位3人を「福男」として認定してきました。渡部さんは17年は二番福、18年は三番福でした。 かつて仲間に「一番福」を取らせるために他の人の走りを妨害するトラブルが起き、「一番福」の返上騒ぎもありました。神社側は05年から門の前の場所取りを禁止。門の最前列に並ぶAグループ(108人)をくじ引きで決めるようになりました。

人数制限があり、先着1500人がくじを引くことができます。Aグループに入るだけでも10倍以上の倍率を突破しなければいけません。しかもAグループに選ばれたとしても、最低でも前から3列目あたりのポジションを獲得できなければ、福男は難しく、くじ番号は20番台までが必要です。本殿に最初に駆け込むにはスタート位置が重要とされるからです。

渡部さんは17年は20番、18年は26番でした。「昨年は前から3列目の真ん中あたりでした。開門と同時に両サイドの人が真ん中へ押し寄せてきた。だんご状態で20~30メートル走ったところで左サイドが空いた。大回りになりましたが、そのスペースを狙って一気に加速しました」。本殿までの距離約230メートルは同じですが、その年の“流れ”もあり、健脚だけではなく、瞬時の判断が求められます。

2年連続で福男になった渡部さんですが、どんな2年だったのでしょうか。「友達や職場の同僚がとても喜んでくれた。2年連続の福男はすごく反響が大きかったです」。川西市消防本部に勤める渡部さんは他の市町村との研修に参加することがあります。上司が「福男なんですわ。しかも2年連続」と紹介すると、会話が弾みます。「初めての人でも親近感を持っていただいたようです」と振り返ります。

福男はその年の福を一身に集めるのではなく、福を周囲に分け与える役割があります。

「一昨年は、プライベートでは福男になる前にプロポーズしていたので、結婚式が無事に終わったのが福でしょうか。それよりも同僚が結婚することが多かった」

昨年は「姉に2人目の子ども誕生しました。無事に生まれたことが福です」。

18年はプライベートでは特に大きな変化のない、いつも通りの1年だったそうですが、「そういえば…」。昨年末に25万円の家電をキャッシュレスで購入しました。キャンペーン期間中で、上限の5万円がポイントで還元されましたが、さらに抽せんがあり、高倍率の抽せんを突破し、プラス5万円の還元があったそうです。まさに運気は上昇中?

19年のAグループのくじ引きは10日午前0時に始まります。大正時代には15回連続して福男になった強者もいましたが、05年以降、2年連続して福男になったのは2人だけ。

「もし19年も福男になることができたら市民のみなさんにとって良い年になるよう、そして災害のない年になるように」。胸に思いを秘め、渡部さんはくじを引きます。

【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)