今年の通常国会が28日、召集され、6月まで約5カ月にわたる国会論戦が幕を開けた。召集当日には開会式が行われ、参院本会議場に天皇陛下がお出ましになり、お言葉を述べられるのが通例だ。陛下は今年4月で退位されることから、今回の開会式は、いつもと違う雰囲気に包まれていたように感じた。

召集日は、陛下が国会に来られることから、警備もいつになく厳重だ。式が始まる直前には、付近で廊下を歩いていても衛視に注意を受ける。かつて、式のさなかに議員の携帯電話が鳴ってひんしゅくを買った例もあるが、議場に入る際は、携帯の電源を切ったことを衛視に確認してもらう必要がある。今回は式の30分前、本会議場の記者席に座った。しばらくすると、背後に「圧」を感じた。記者席後方の傍聴席を振り向くと、すでに満席。席に座りきれず、席の後方に立ったままの人々で、立すいの余地もなかった。記者席のスペースも、多くの記者やカメラマンで身動きが取れない。これが国会召集日への最後のお出ましとなることもあり、議場内の傍聴可能な席は、お言葉を聞こうとする人で、すべて埋まっていた。

開会式は、これから激しい与野党論戦を控えた国会での、「特別な時間」だと思っている。議場には議員が与野党関係なく集い、陛下の言葉に静かに耳を傾ける。数時間後には、首相の施政方針演説に野党のヤジが飛び、時に騒然となる場所だ。それが、この10分弱の開会式の間だけは、静寂に包まれる。

演壇に向かい、通常とは違う制服を着た衛視が、行進するような場面もある。ぴんと張り詰めた空気の中始まった式で、陛下は、演壇の議長席後方に置かれた特別ないすから立ち上がり、「内外の諸問題に対処するに当たり、国権の最高機関としての使命を十分果たし、国民の信託に応えることを切に希望します」と、穏やかな口調で呼びかけられた。議員も傍聴者も、直立不動のまま。場内に響くのは、カメラのシャッター音だけだ。

陛下が退場され、式が終わると、議員は国会の正門前に移動し、車で皇居に戻られる陛下を見送る。写真撮影は厳禁。車の動きに合わせて、3回ほど体の方向を替えながら、頭を下げる。これが、召集日の「儀式」。その後、和装議連の着物撮影会を経て、首相の演説が始まり、それまでの「静寂」は、打ち破られる。

来年の通常国会開会式には、皇太子さまが新天皇として、お出ましになる。国会も、新しい「歴史」の舞台の1つになるのだ。