9月27日に投開票された自民党総裁選で、新総裁に石破茂氏(67)が選出された。3度目ならぬ5度目の正直。「最後の挑戦」と退路を断っての出馬だったから、結果が違えばどうなっただろう。実際、1回目の投票で「9人の候補の中で断然強い」と言われた党員票で、高市早苗経済安保相(67)に1票負けていた。国会議員票は72票の高市氏に遠く及ばない46票で、数字の発表を見守っていた陣営ではため息が漏れたと聞いた。決選投票では最終的に「反高市」「反麻生」で、国会議員票が雪崩を打って石破氏に流れる形になったが、勝つか負けるかの結果次第で、政治家人生も天国と地獄ほどの差があったことは想像に難くない。
そんな石破氏の勝利が分かった瞬間、鳥取市の地元事務所で行方を見守っていた妻の佳子さん(68)は、口元を押さえ目を丸くして、本当に驚いていた。政治家の妻には、積極的に表に出たり発信したり、取材にも対応してくださる方もいるし、逆にほとんど表に出ない方もいる。最近のファーストレディーでは、安倍昭恵さんや鳩山幸さん、菅直人元首相夫人の伸子さんらは、よく表に出ていた。細川護熙元首相の佳代子夫人は夫が首相に就任した際に取材に応じ「私でできることがあるなら、アドバイスをしたい」と宣言したし、橋本龍太郎元首相の久美子夫人も気さくに取材に応じてくださり、作家の吉永みち子さんによる本になったくらいだった。
10月1日に石破氏が首相に就任するとファーストレディーになる佳子さんについて、以前はあまり積極的には表に出ない方、というイメージを勝手に持っていた。しかし、石破氏が3度目の総裁選で安倍氏と一騎打ちとなった時の、二人三脚ぶりの選挙戦で印象が変わった事を覚えている。
2018年総裁選は、モリカケ問題が指摘される中ではあったが、「1強」の現職総理安倍氏との一騎打ち。安倍氏の優勢が伝えられ、外交日程を理由に毎回恒例の東京や大阪での街頭演説が見送られるなど、国民人気に活路を見いだしたかった石破氏には、相当アウェーの戦いだった。この時、話題になったのが、佳子さんが支援を呼びかける動画。石破氏の公式サイトに「妻の佳子から皆さまへ」と題された動画が投稿され、「石破茂は国のため、一生懸命力を尽くしたいと思っています」などと訴えかけた。石破氏は当初、妻を出すことに消極的だったと聞いたが、そうでもしない限り劣勢を跳ね返せないという戦略の1つだった。
佳子さんはこの時、東京・銀座での石破氏の街頭演説にも、ともに立った。歩行者天国をスーツ姿の石破氏とともに歩き、汗だくになる夫の様子を気に懸け、水を渡し、でも石破氏に握手を求めて集まってくる人のじゃまにならないよう、絶妙な距離感で寄り添っていた。選挙カーに乗ると、石破氏が演説をした後でマイクを握り「正々堂々と戦ってまいります」と訴えた。選挙カーから降りた佳子さんを直撃すると「偶然会った方もいらっしゃると思いますが、多くの方に応援していたき、大変うれしかったです」と、笑顔で応じてくださった。
石破氏はこの総裁選も結局は敗れるのだが、佳子さんの姿は、その後も印象に残り続けた。今回、「最後の挑戦」として総裁選に臨んでいた石破氏にインタビューする機会があり、家族の支えについて聞くと、石破氏は照れることもなく佳子さんに触れた。
2人が知り合ったのは慶大法学部時代の1975年(昭50)で、1983年(同58)に結婚した。「もう41年にもなるんですかねえ。私のいいところも悪いところもよく知っているのが、私の配偶者」と語り「政治家の奥さんって、大変なんです。自分があれをやりたい、これをやりたいということを言わずに支えてくれている。本当に、感謝してもし尽くせないと日々、思っているところであります」と口にした。
ファーストレディーは、「孤独」といわれる一国の首相をいちばん身近で日々見守る存在だが、自身の言動にも注目が集まることになる。ファーストレディー経験者にかつて話を聞いたことがあるが、自身の活動も一定の制約を受けることから、生活は大きく変わったという。
最初に総裁選に挑戦した2008年から16年かけて、望み続けた立場に上り詰めた石破氏。佳子さんは、総裁選の結果が出た後の取材に、石破氏から連絡があった際に「頼む」と、伝えられたと明かしている。新しいファーストレディーとして、どんな姿を見せていくのだろうか。【中山知子】


