2020年東京オリンピック(五輪)を記録する公式映画の監督を務める、河瀬直美監督(50)がエグゼクティブディレクターを務める、なら国際映画祭がアフリカ人の女性若手映画作家を奈良に招き、映画製作制作を学んでもらう人材育成プロジェクトを行うことが決まった。

今回のプロジェクトは、国連が掲げるSDGS(持続可能な開発目標)の1つ、ジェンダー(社会的な性差)平等などの実現を目指す活動の一環として行われる。アフリカの女性支援に取り組む国連教育科学文化機関(ユネスコ)と、次世代の映像作家の育成を意欲的に続ける、なら国際映画祭の思いが一致し、実現した。

アフリカからブルキナファソ、ケニア、セネガル、ナイジェリア、南アフリカの5カ国と日本から12人の若手女性映像作家が奈良市田原地区に集まり、3月30日から4月12日までの約2週間、映画製作を学ぶ。参加者は民家にホームステイして2人1組で短編映画を製作する、撮影合宿となる。撮影は、河瀬監督が世界3大映画祭の1つ、カンヌ映画祭(フランス)で審査員特別大賞を獲得した07年「殯(もがり)の森」の舞台で行われる。

ユネスコによると、アフリカ各国から約600人の応募があり、10人を選んだという。完成した作品は、9月18日から同22日まで奈良で開催される、なら国際映画祭で上映され、12人の監督による舞台あいさつも行われる予定。

河瀬監督とユネスコのオードレ・アズレ事務局長は13日(現地時間)パリのユネスコ本部に148カ国とEU加盟国が集って行われた「芸術文化多様性促進条約会議」で、プロジェクトについて発表し、それぞれコメントを発表した。

河瀬監督 アフリカの女性が置かれている現実は厳しいものです。けれど、そこから生まれる「強さ」があります。その強さが人の心を動かし生まれる感動があります。私たちの出会いは、これまで別の時間を生きてきたもの同士が宝物を発見する手がかりとなるでしょう。この取り組みは作品制作をすることだけで終わるのではありません。彼女たちにとって人生を変える体験になるのではないでしょうか? この偉大なる航海を想像すると胸の高鳴りが止みません。ぜひ、この旅の行く末を今年のなら国際映画祭にて見届けていただければと思います。

アズレ事務局長 アフリカの若い女性監督たちが自らの声を世界に発信していくことをユネスコは支援します。約600名が応募してきたということは、その必要性、可能性があることの現れです。このワークショップは選ばれたアーティスト10名を応援するメッセージを送っているだけでなく、彼女たちの創作活動がしやすい環境づくりを支援する必要があると、各国の政府に向けたメッセージでもあります。こうしたワークショップを支え、法律面、仕組み、資金的な援助等、残された課題に取り組む必要性、中でもアフリカの女性に向けた活動にユネスコは寄り添っていきたいと考えています。

なら国際映画祭は、奈良の平城遷都1300年目となる10年に河瀬監督をエグゼクティブディレクターに迎えて始まり、2年に1回開催されている。国内外の若手監督と奈良を舞台とした映画製作を行うNARAtive(ナラティブ)や、こども・海外学生とのワークショップ、奈良市内を移動する映画館「ならシネマテーク」など多数のプロジェクトが行われる。

また学生部門「NARA-wave」の中で、フィクション作品で短編の作品は、カンヌ国際映画祭シネフォンダシオン(学生部門)への推薦を行うほか、その範囲に入らない作品も、他の映画祭などへ推薦し、若い映画作家への支援を行っている。そうした、河瀬監督の若手映像作家育成の熱意ある取り組みが、今回のユネスコとのタッグを生んだ。