将棋の最年少5冠、藤井聡太王位(竜王・叡王・王将・棋聖=19)が豊島将之九段(32)の挑戦を受ける、「お~いお茶杯第63期王位戦7番勝負第1局」が28、29の両日、愛知県犬山市「ホテルインディゴ犬山有楽苑」で行われ、先手の豊島が先勝した。

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目を見開いて、豊島は盤全体を見渡していた。自玉と相手玉の詰みを何度も確認する。29日の午後4時15分、持ち時間8時間のうち2時間41分も残している。前日からの豊島の揺さぶりに神経と時間を削られ、残り9分しかない藤井とは対照的だ。勝負どころで惜しげもなく時間を使える。アドバンテージをフルに生かした。右手の指を動かしながら、最終局面を頭の中に思い描いていた。

「すごくうまくいったという感じはなかったです。決断良く指しました。読み抜けがなければ勝ちだと思っていました」。詰み筋を確認し、白星をもぎ取った。

昨年、藤井への苦手意識が加速した。叡王戦は2勝3敗でタイトルを失った。王位戦は開幕局を制しながら、4連敗で挑戦を退けられて藤井の初防衛を許した。昨年10月からの竜王戦は4連敗となり、再度タイトルを失った。

無冠となって臨む約7カ月ぶりのタイトル戦。開幕の記念に求められた揮毫(きごう)に「新」(藤井は「進」)という字を選んだ。「今年、新しい気持ちで将棋に取り組んでいますので」と説明した。

特に中~終盤を強化するため、詰め将棋を解く量を増やしたという。地に足をつけたやり方を繰り返して早速、結果を出せた。

第2局は札幌市が舞台となる。昨年は同じ北海道は旭川市で行われた対局を落とし、シリーズの流れと「対藤井」の図式が変わった。「少し空くので、しっかり準備して頑張りたい」。

豊島は初めてタイトルを獲得した2018年(平30)の棋聖戦、続く王位戦、19年の名人戦、竜王戦、20年叡王戦と、挑戦者として5回連続でタイトルを奪取した。その勢いを再現できるか。次局以降、真価が問われる。【赤塚辰浩】