富山県の高岡駅から同県氷見市を結ぶ路線が氷見線だ。高岡を除くとわずか7駅、16キロほどのローカル線は氷見で行き止まりの小さな鉄路だが、富山湾沿いに走る車窓から美しい景色をずっと見られることで有名。特に富山湾の向こう側にそびえる立山連峰は絶景だ。観光列車「べるもんた」に揺られて氷見へと向かったが、実は「今度こそは…」の旅でもあった。(3月1日時点の情報です)

 
 

高岡駅で待っていたのは「ベル・モンターニュ・エ・メール」。愛称「べるもんた」である(写真1、2)。高岡から南(山側)へ伸びる城端線(じょうはなせん、難読です)と北(海側)へ伸びる氷見線(こちらも意外と難読)の「美しい山と海」のフランス語が列車名となった観光快速列車(※)。快速なので乗車券以外は指定席券のみで乗ることができるが自由席はない。

〈1〉観光快速列車のべるもんた
〈1〉観光快速列車のべるもんた
〈2〉キハ40を改造している
〈2〉キハ40を改造している

元となった車両は日本中の非電化区間で活躍のキハ40。土曜日は城端線を日曜日は氷見線を走る。ぬくもりを感じる車内の、ひとつひとつにこだわりを感じる(写真3)。私が感心したのは、そのまま残る扇風機。日本中の車両から扇風機は急速になくなりつつあるが、これはあえて残したのだろう。しかも細かいこだわりを残して(写真4)。つり革などにもそれを感じる。

氷見線は明治以来の歴史を持つ。昨年6月6日の大阪・桜島線でも書いたが港湾に至る路線は総じて歴史が古い。徐々に延伸され、氷見に到達したのも大正元年。高岡から街の中心部を抜け、伏木に至ると、そこから富山湾に沿って走る。景観という意味では、ここからが本番。べるもんたのお客さんも一斉に身を乗り出す。

〈3〉「べるもんた」の車内
〈3〉「べるもんた」の車内
〈4〉扇風機にもこだわりを感じる
〈4〉扇風機にもこだわりを感じる

氷見線乗車は3回目。しかし私にはまだ果たせないことがある。真っ先に見どころとして「立山連峰の絶景」と記したが、まだ絶景を拝めたことはない。海から3000メートルの山々を見られる光景は世界でもそう多くはなく、日本ではもちろん唯一だという。それほど素晴らしい景色なのだが、富山湾の向こうのさらに向こうである。気象条件に左右されることが多く、本当の絶景は年に数回とか。当然、1日のうちで変化する。車窓からとなると本数が多いとはいえない氷見線。さらに難易度は高まる。

旅程を決める時点で気象条件が分かるはずはなく、運任せ、いや日ごろの行いとまでも考えてしまうのだが、絶景でなくとも「準絶景」でもいいではないか。その結果は…(写真5)。

〈5〉今回の車窓。うっすらと立山連峰が望める…
〈5〉今回の車窓。うっすらと立山連峰が望める…
〈6〉車窓からの雨晴海岸
〈6〉車窓からの雨晴海岸

うーん、これでも過去2回に比べるとかなり良い方だが「準」かどうか微妙なところだ。カメラを構える時、妙に手がぶれてはいけないと、車中の酒も控えたのだけど。

間もなく源義経に由来するという雨晴海岸(写真6)を望む雨晴駅を経て終点の氷見へ(写真7)。ひょっとして時間で変わるかも、と氷見の街の散策もグルメもあきらめ、タクシーで雨晴駅へ(写真8、9)。短時間でそうは変わらず、宿題を残してしまったようだ(写真10)。

〈7〉2つの字体が見られる氷見駅
〈7〉2つの字体が見られる氷見駅
〈8〉難読駅というより素晴らしい駅名で知られる雨晴
〈8〉難読駅というより素晴らしい駅名で知られる雨晴
〈9〉雨晴の駅舎
〈9〉雨晴の駅舎

その氷見線だが大きな変革が訪れるかもしれない。今年になって城端線と合わせたLRT(ライトレール)化への検討開始が発表された。LRTにはいろいろな定義があるが、簡単に言ってしまうと路面電車への転換である。前回紹介した富山ライトレール(現在は富山地鉄)は閑散路線だったJR富山港線からの転換で成功した。LRT化することで新駅を簡単に設置でき、本数も増やせる。もっとも設置までの経費を考えると、すぐ実現する話ではないのだが。

〈10〉雨晴に入線する普通列車
〈10〉雨晴に入線する普通列車
〈11〉明治からの伏木駅。文字体に歴史を感じる
〈11〉明治からの伏木駅。文字体に歴史を感じる

もともと氷見線はまだ先に行く予定だった。これも以前書いたことがあるが、明治期の鉄道は、いわゆる「盲腸線」としては計画されない。けん引する機関車の方向転換が面倒になるからだ。氷見線もいずれは能登半島を横断して七尾線方面へと向かう予定だったが、100年以上現在の姿のまま。その代わりに立派な国道に加え、近年に能越自動車道が城端線、氷見線そして七尾を結び、乗客数は落ち込んでいる。海水浴客でにぎわった面影は消えている。

ただ海岸に沿ってビッシリ走る鉄路に揺られながらの風情は代用しがたいものである。そんな動きも知っていたので、実はもう1泊して氷見線の各駅を味わうつもりだった。万葉線での時刻表見間違えもリカバーでき、能町や伏木(写真11)のすてきな駅舎を堪能するつもりだった。ただ、この時点ですでに宿泊を伴う旅は難しかった。高岡でブリだけ味わって帰宅。現在はべるもんたも休止となっている。今は再度の絶景チャレンジに向けて、日ごろの行いに励むことにしよう。【高木茂久】

〈12〉記念乗車証
〈12〉記念乗車証
〈13〉記念のスタンプを押してくれる
〈13〉記念のスタンプを押してくれる

※べるもんたには、すし職人が乗車し、車内ですしを握ってくれる。地酒の飲み比べセットなども含めて予約制。ただ当日に在庫があれば数量限定で販売することもある。記念乗車証のほか、その日だけの記念印もある(写真12、13)。