19世紀が終わろうとしていた1898年(明治31)に開通した近江鉄道は3世紀にわたる120年もの歴史を持つだけに歴史ある駅舎も多い。明治期から残存する駅舎、そして歴史の舞台に立ちかけた駅を訪ねるコースは思わぬ失敗もしながら中心駅となる八日市を目指した。(訪問は9月13日)


水口城南から水口松尾までの「水口シリーズ」は線路の長さが4駅で2・4キロしかなく、徒歩も問題ない距離だが、水口松尾から日野へは5キロ近い。甲賀市と日野町の境のこのあたりになると光景も住宅地ではなく緑や農地が目立ってくる。道路のアップダウンもある。ということで、ここからようやく電車に乗車である。(※1)

日野駅は1900年からの名駅舎。老朽化で一時は解体の話も具体化したが歴史ある駅舎だと地元が大反対。クラウドファンディングによる寄付に加え、ふるさと納税なども含めた町の予算で改修にとどめたという経緯がある。年季の入った駅名標などは、そのままの姿をとどめており、加えて鉄道資料館も開設された。以前使用された手書きの案内板や行先標が展示され、近江鉄道の歴史も伝えられている。(写真1~5)

〈1〉地元の熱意で明治からの駅舎が残った日野
〈1〉地元の熱意で明治からの駅舎が残った日野
〈2〉古い駅名標が今も現役
〈2〉古い駅名標が今も現役
〈3〉列車交換可能な構造となっている
〈3〉列車交換可能な構造となっている
〈4〉日野駅に隣接する鉄道ミュージアム
〈4〉日野駅に隣接する鉄道ミュージアム
〈5〉かつて日野駅などで活躍した品々が展示されている
〈5〉かつて日野駅などで活躍した品々が展示されている

近江鉄道は1898年に彦根から八日市までが開通。2年後に貴生川まで延伸されて日野や水口の駅が誕生。現在の本線(米原~貴生川)に近いものとなった(※2)。日本の大動脈である東海道本線が全線開業となり、その後に近江鉄道との接続駅となる米原、彦根、近江八幡(当時は八幡)の各駅が開業したのは1889年だから10年ほどしか変わらない。近江鉄道はかなり早い開業だといえる。

お隣の朝日野へと向かう。日野町にある駅は日野だけ。朝日野からは東近江市となる。とはいえ線路の距離は2・6キロ。平らなコースで普通に歩けば約30分。昼間は1時間に1本の運行なので再び徒歩。だが資料館でじっくり展示物を見たこともあって30分ちょうどぐらいの時間しかなく速足で向かう。まぁ、なんとかなるだろう。と、道路が線路から離れていく。

これは困った。今日は道路案内のアプリは使わない予定だったが、慌てて立ち上げる。確かに駅に向けて農地をグルリと回り込むようになっている。ただ農道もあれば、あぜ道もある。何とかなるだろうと最短で線路を目指したものの行き止まりに阻まれ、かえって時間をロス。そのうち電車が線路をやってきて少し先で停止音がした。つまりはギリギリ間に合わなかったのだ。急がば回れという言葉そのままの出来事。まぁ停止音のおかげで駅の位置は分かったけど。

朝日野駅で1時間過ごすことが確定した。しょうがない。まだ暑さの残る季節だったので冷たいものでも飲んで過ごそう。当の駅は待合室だけの簡易駅。もとは2面のすれ違い可能構造だったが、今は1面。というか、すっかり草木に覆われている。待合室のベンチに目が行く。昭和の末期、滋賀県ではびわこ空港の建設計画があった。その最寄り駅が、ここ朝日野だったのだ。その後凍結された計画はスタートから20年以上の時を経て中止された。

朝日野も1900年の開業。駅舎はあったが、解体されて現在の形になった。もし開港となっていれば駅を含め周辺はどうなっていたのか、自然に帰ろうとしているかのような駅名標を見ていると、いろいろ考えてしまった。(写真6~8)

〈6〉待合所だけの朝日野駅はかなり草に覆われていた
〈6〉待合所だけの朝日野駅はかなり草に覆われていた
〈7〉朝日野駅のベンチ
〈7〉朝日野駅のベンチ
〈8〉駅名標は自然に帰ろうとしていた
〈8〉駅名標は自然に帰ろうとしていた

その後、こちらも棒状駅である朝日大塚を経て桜川へ。日野と同じ誕生日の木造駅舎が残る。日野と違って、こちらはほぼ原型ではないだろうか。平日の午後2時だが、多くの高校生とともに電車を降りて駅舎を出た。残る広告に時代を感じる。(写真9~12)

〈9〉朝日大塚駅も待合所だけの1線駅
〈9〉朝日大塚駅も待合所だけの1線駅
〈10〉桜川駅も古い駅舎が残る
〈10〉桜川駅も古い駅舎が残る
〈11〉ホーム側から駅舎を見る
〈11〉ホーム側から駅舎を見る
〈12〉駅舎内の広告に時代を感じる
〈12〉駅舎内の広告に時代を感じる

本日のゴールは八日市。前回もだったが、私の生活圏では貴重なスガキヤのお世話になる。夕刻となり八日市のホームは高校生で埋め尽くされた。鉄道むすめの豊郷あかねさんと赤電に見送られて近江八幡経由で帰路につくとしよう。また来ます。【高木茂久】(写真13~17)

〈13〉近江鉄道の中心駅となる八日市の平日夕方は高校生でいっぱいとなる
〈13〉近江鉄道の中心駅となる八日市の平日夕方は高校生でいっぱいとなる
〈14〉八日市にもしっかり文字案件がある
〈14〉八日市にもしっかり文字案件がある
〈15〉スガキヤといえばこのスプーン
〈15〉スガキヤといえばこのスプーン
〈16〉鉄道むすめのラッピング車
〈16〉鉄道むすめのラッピング車
〈17〉赤電に出会わないと近江鉄道に乗りにきた気がしない
〈17〉赤電に出会わないと近江鉄道に乗りにきた気がしない

※1 今回利用したのは「関西1デイパス」。ほぼ通年販売されている近畿圏のJR西日本1日乗り放題のフリータイプのきっぷだが、11月29日まで販売される「秋の-」は近江鉄道も乗り放題となっている。利用前日までの販売で平日も利用可。詳しくはJRおでかけネットで。

※2 彦根~米原間の開通は昭和になった1931年。