毎年梅雨になると楽しみなのがイサキ。ひと雨ごとにおいしい脂をまとっていく不思議な魚だ。内房・勝山「宝生(ほうせい)丸」(高橋賢一船長)ではゴロンと太ったイサキ&海面下80メートルから釣り上げてくるアジが旬を迎えている。手巻きリールで引き味をじっくりと楽しんでくださいネ。

なぜ、手巻きリールなのか? 海面から80メートル、ってけっこう深い。ただ、勝山港沖のこの水深で狙うのはアジ。アジの口は薄くてパリンと音を立てて割れそうなガラス細工みたいだ。アタリを感じてからギュンとサオ先が曲がる勢いの良さからすると、力強く巻き上げたいところだが、そこを力にまかせてリールを巻いてしまうと、アジの口が切れて「サヨナラ~」なんてことになってしまう。

ここは慎重にやりとりしたい。サオの軟らかさをうまく利用する。プルルン、というアタリを確認したら直後にサオをじんわりと上にあげて、しっかりとハリ掛かりさせる。それから、じっくりと手巻きリールで巻いてもらいたい。

海面から80メートル。そりゃ、深い。途中でアジに潜られて、そのパワーを感じることができる。同行した築地場外で木&金曜だけ店を開く「JOJOバー」を切り回す森山利也さん(55=富津市)は、内房の釣りに精通していて、アジ釣りも得意だ。

森山さん 別に電動リールを悪くいうつもりはない。でも、せっかく釣りで船に乗ったのなら、その海を十分楽しんでいただきたい。サオを持ってリールを巻く。釣った魚がブルブルするんです。全部手に伝わる。口切れの防止策でもあるけど、手巻きリールだと釣った魚の息吹を感じられる。ぜひ、堪能してください。

東京湾のアジは、水深20メートルの底付近で釣れる浅い層が主流の釣りポイントだ。深い場所で泳いでいるアジはどうなのだろうか?

森山さん おいしいですよ。しかも、サイズが30センチ超がそろっている。デカい。体色も黄色でキラキラして金谷の黄金アジに近いみたい。なぜ、深場にいるのか、それはアジに聞いてみないと分かりませんが、この深場のアジなんか、刺し身にしたらほっぺが落ちちゃいますよ。

アジがおいしいのはよく分かった。梅雨の主役はイサキだ。アジとはタナ(魚の回遊する層)が違って、海面から20~30メートル。リールに巻いているPEラインは10メートルごとに色が違う。つまり、2色分落とせば20メートル、3色ならば海面から30メートル下の深さまで仕掛けを落とせたことになる。手元が何色でアタリが取れたのか分かれば、そのタナを守って釣れば、イサキは確実に釣れるのだ。

使う仕掛けは、アジもイサキも全長3メートルで、2~3本バリでいい。コマセはアミエビで、そのコマセをまいて、ハリス分の3メートルを上げて、コマセの煙幕に仕掛けを潜り込ませればいい。ビギナーでもすぐ慣れるので、イサキの鋭敏なアタリを楽しめるだろう。

取材日は、今月11日だった。前日の雨は上がったが、頭上には雲が残り、強風が吹き荒れて、きれいに富士山が見えていた。遠くからでも富士山がくっきりと見えるとき、それは強風である証拠ともいえる。

前日10日から勝山港に入り、様子を見ていたが、沖を舞う鳥も風にあおられて、よろよろと飛んでいた。これはいくらなんでも出船しないだろう、と勝手に臆測して、港にいた宝生丸の若手のエース、小滝俊之船長に声をかけた。

「タコボウズさん(寺沢のことです)、勝山じゃ、このぐらいの海はナギだっぺよ。出るさ」などと、あくび交じりで返ってきた。森山さんと慌てて支度をして、今年3月に就航したばかりの新船「第二十一宝生丸」に乗り込んだ。総重量17トン。いとも簡単に荒波を切り裂いた。大きな横波もはね返す。これならば、落ち着いて釣りもできそうだ。

森山さん いろんな船に乗ってるけど、この船は釣りやすい。ちょっとやそっと荒れたぐらいじゃビクともしないね。初心者でも安心できるねぇ。

この安定した乗り心地もあって、森山さんはイサキ46匹、アジ31匹。タコボウズ記者もイサキ29匹、アジ23匹と大漁だった。雨が楽しくなる梅雨イサキ、勝山沖でチャレンジしてみませんか?【寺沢卓】

▼船 勝山「宝生丸」【電話】0470・55・2777。アジ→イサキのリレー乗合船は、午前5時出船なので、30分前には港に来てください。氷とコマセ付きで1万円。付けエサの赤タンは100円。乗船は「第二十一」ではない場合もあります。料金の割り引きもあるので、電話で要確認。