2020年春は、新型コロナウイルス感染拡大による東京オリンピック(五輪)の延期、スポーツや各種イベントの延期、自粛などで揺れ動いている。日刊スポーツは連載「2020始まりの春」で、試練の春に新天地でスタートを切る各界の個人、団体を紹介する。第1回は昨年11月に東京五輪を目指し現役復帰した17年世界陸上選手権男子110メートル障害代表の増野元太(26=メイスンワーク、北海道北斗市出身)。

迷いはない。増野は目標とする東京五輪が1年後に延期されても、母校の国際武道大(千葉)でハードルと向き合い続ける。「五輪が延期になってしまい戸惑いもありますが、東京五輪チャレンジということで始めたものなので、成功させて終われるよう精進していこうと思います」。復帰レースで再出発するはずだった春、決意は揺らぐことなく前だけを見る。

「夢が見られなくなった」。そうコメントを残して、陸上の世界から姿を消した。17年には当時日本歴代2位の13秒40を記録し、同年に初出場した世界選手権(ロンドン)では同種目で日本勢唯一の予選突破を果たした。日本トップの実績を残しながら「引退前は使命感みたいなものでやっていた部分が多かった。モチベーションが上がらなかった」。慢性的な両膝の痛みに加え、競技に臨むマインドの上でも方向性を見失った。18年10月の国体を最後にスパイクを脱ぎ、昨年4月に引退を発表した。

引退後は故郷に戻り、地元企業で働いた。日本記録保持者の高山峻野(25=ゼンリン)や道南出身の金井大旺(24=ミズノ)の活躍に、驚きはしたが「陸上からは完璧に離れていた」と意に介さなかった。そんな増野の心が動き始めた。昨夏、陸上教室に講師として参加した際、運動から遠ざかっていたものの「体を動かしてみたら、すぐ動けた」。故障が癒えたこともあり、復帰を勧める知人の紹介で、墓石販売を手掛けるメイスンワークから支援の話がきた。「今しかできない」と、プロ選手として復帰を決意した。

復帰初戦に予定していた4日の国際武道大記録会は学外選手の受け入れ中止で白紙になった。国内大会も軒並み延期が決まり、代表選考も見通しは立たない。まずは来年7月23日開幕が決まった東京五輪の参加標準記録(13秒32)を目指す。「順調に進めば、届かないところではない」。昨冬は初めて本格的な筋トレを行い、下半身強化の成果に自信をみせる。「純粋な、楽しい気持ちで挑んでいます」。1度やめた男の覚悟は、強い。【浅水友輝】

◆増野元太(ますの・げんた)1993年(平5)5月24日、北海道北斗市生まれ。北斗久根別小3年で陸上を始め、4年からハードルに取り組む。北斗上磯中を経て進学した函館大有斗では110メートル障害で3年の総体優勝。国際武道大では同種目元日本代表の桜井健一コーチのもとで、3年時に日本選手権優勝、日本代表として出場した14年アジア大会(韓国・仁川)4位。ヤマダ電機所属時の17年に世界選手権出場。182センチ、78キロ。独身。家族は両親と兄、妹。父と兄は全国大会に出場した元ハードル選手。