柔道男子代表の井上康生監督(42)が、日刊スポーツの電話インタビューに応じ、1年延期となった東京オリンピック(五輪)への思いを語った。

15日の全日本柔道連盟(全柔連)の常務理事会で、男子66キロ級を除く五輪代表6人の代表権維持の方針が固まったが、代表活動再開の見通しは立っていない。金メダル量産を期待される看板競技の指揮官として、この苦難をどう乗り越えるのか。現実を冷静に受け止めた、「ポジティブな考え」があった。

   ◇   ◇   ◇

井上監督は東京五輪が来夏に延期され、複雑な胸中を明かした。今年7月に照準を合わせ、万全の準備を整えてきた中で突然襲ったコロナ禍。「コロナは想定外だった。苦しくてもどかしい時期が続くが、今は何事も我慢しかない。収束状況を見ながら、日程を逆算して課題に対処したい」。

2月末に66キロ級を除く五輪代表6人が決まった。しかし、五輪延期を受けて、選手の代表権の処遇などを巡り議論を重ねた。15日に開かれた全柔連の常務理事会で、国内外の大会再開が不透明なことから代表権維持の方針が固まった。それまで選手は、代表の扱いが宙に浮いた状態で自主トレーニングを約2カ月続けた。

井上監督は日々不安と葛藤する選手たちと連絡を密に取り、状況確認や自宅トレーニング方法などを共有した。苦しい時こそ、気持ちの切り替えも重要であることを説いた。「けが人はいないが、この状況で一番のけがは心の部分だと思う。選考問題や練習環境の面から、体だけでなく心も乱れる。難しいかもしれないが『ピンチはチャンス』と捉えて、新たなことに取り組むなど余裕を持って過ごすことも大切と伝えた。この時間の経験は無駄ではなく、人生の財産になる」。

井上監督は、東海大での授業の準備以外は自宅での仕事を心掛ける。仕事以外は家族との時間を大切にし、最近は料理にはまっている。献立→料理→食器洗いを1人で行い、妻の亜希さんをサポートする。地元宮崎名物のチキン南蛮や、長女の11歳の誕生日にはチーズケーキを作った。「世の中の奥様方が毎日当たり前のようにやっていることが、こんなに大変かと身に染みている。料理のスキルも上がり、子供たちが一瞬で食べる姿を見てなんだかうれしくもなった」。動画編集や日曜大工にも挑戦し、新たな発見や学びが日々の刺激になっているという。

井上監督は言う。「本業ができないことで相当ストレスもたまっているが、それを嘆いてもできない。今日という日も返ってこない。であれば、明るい未来を信じて1日1日を前向きに、生きがいを感じるような時間にしたい」。東京五輪を集大成とする42歳の指揮官は、前だけを見据えている。【峯岸佑樹】

◆井上康生(いのうえ・こうせい)1978年(昭53)5月15日生まれ、宮崎市出身。5歳から柔道を始める。東海大相模高-東海大-ALSOKを経て東海大柔道部副監督。東海大体育学部准教授。00年シドニー五輪100キロ級金メダル。04年アテネ五輪では日本選手団主将。08年に現役引退後、指導者研究で英国に留学。12年11月に男子代表監督に就任。家族構成は妻、1男3女。183センチ。

○…女子代表の増地克之監督(49)は、五輪代表7人の悩みに対する解決策を模索している。道場での集団稽古が自粛中のため「体重が普段より増えている」「疲れが抜けない」との選手からの声を受け、「稽古は段階的になると思うので、ケア器具を紹介するなどしてストレスを減らしてあげたい」と説明。自粛生活を期に10キロの減量に挑戦中で「現在103キロ。あと3キロ落とせば目標達成。健康的な生活を継続したい」と話した。