4大会ぶり2度目の優勝を果たし、ワールドカップを掲げるロドリ(中央)らスペイン代表(ロイター)
4大会ぶり2度目の優勝を果たし、ワールドカップを掲げるロドリ(中央)らスペイン代表(ロイター)

4年に1度、旅に出る。地球上の熱狂的なファン・サポーターはワールドカップの開催地を目指す。

高額チケットがクローズアップされたが、旅に出るのは富裕層ばかりではない。庶民もまたW杯に向かう。今大会前、自転車でアメリカまで駆けつけたアルゼンチンサポーター3人組が話題となっていた。

およそ1万7000キロの旅。昨年8月に出発し、南米からカリブ海、そして北米へと17カ国を渡り、9カ月かけてアルゼンチンが初戦を迎えるカンザスへと移動した。どんな冒険好きな若者かと思えば、趣味を通じて知り合った56歳、49歳、29歳の男性だった。

「W杯は私の人生そのものなんです」

このために日々を頑張り貯金して、旅に出る。そこまで人を突き動かす魅力がW杯にはある。

私も昔、旅に出た。最初は94年米国大会だった。W杯にはさまざまな出会いがあり、いろんな人と遭遇する。今回も同じ米国とあって、忘れられない人がいる。田部和良さん。シカゴからオーランドへ移動する飛行機の中で出くわした。

当時は教員であり、サッカー部の監督も務めていた。サッカー談義をするうちに意気投合した。宿も決めずに自由旅行だった私は、田部さんと同じ宿に空きを見つけて同行した。そのまま街に繰り出し、翌朝まで酒をのんだ。

「サッカーは素晴らしい、W杯は最高だ」

あふれんばかりのバイタリティーの持ち主だった。W杯後しばらくすると教員をやめてJリーグのスタッフへ転身し、その後は横浜FCの立ち上げにも参加。気が付けば、フランス・グルノーブルのGMを務めるなど海外にも活躍の場を広げた。多くの日本人選手が海を渡り、グルノーブルでプレーした。フランスサッカーとの架け橋となった。

梅崎司のグルノーブル入団会見 GM時代の田部和良さん(左)(2007年1月撮影)
梅崎司のグルノーブル入団会見 GM時代の田部和良さん(左)(2007年1月撮影)

その田部さんはくしくもW杯イヤーの14年、ブラジル大会の前に病気で亡くなった。まだ52歳という若さ。志半ばで人生を終えた無念さは計り知れない。その葬儀で見た祭壇は大きな緑のサッカーピッチだった。失礼承知で言うなら、こんなサッカー馬鹿は見たことなかった。

「W杯は私の人生そのものなんです」

自転車でアルゼンチンから米国へ渡ったアルゼンチン人たちの熱意、言葉が重なるようだった。

サッカーは大衆のスポーツだ。それが最大の魅力の根幹となっている。

発祥の英国では18世紀後半の産業革命を機に社会に広がった。ブルーカラーと呼ばれる男性労働者層に支持されたことに始まり、今や老若男女問わず世界中の人が熱中する。そこに人種、宗教、国境、貧富も関係ない。

何より1つのボールを巡る世界最高峰のプレー、戦いに人々は自身のアイデンティティーや生き方、人生というものを重ねる。

だからアルゼンチンのサポーターたちはメッシを神のようにあがめている。「どんな苦しい状況にあっても、自分を信じて戦い抜けば、望むことも成し遂げられるはずだ」。そこは他人ではなく、自分自身としてみているのだ。

サッカーの祭典は幕を閉じた。米国で開催の今回、トランプ大統領の介入が危惧され、実際に裁定を覆す前代未聞の事件に絡んだ。それでも終わってみれば、競技の持つ精神性としての「大衆スポーツ」は守られた。決勝戦後の表彰式、登壇したトランプ大統領へのブーイングは、フットボールアースの民意が見て取れるものだった。

胸を張って言おう。

サッカーは我々の味方だ。【佐藤隆志】

FIFAのインファンティーノ会長(左)とともにピッチに姿を現すトランプ大統領(ロイター)
FIFAのインファンティーノ会長(左)とともにピッチに姿を現すトランプ大統領(ロイター)
スペイン代表が優勝トロフィーをかかげるシーンでのトランプ大統領(ロイター)
スペイン代表が優勝トロフィーをかかげるシーンでのトランプ大統領(ロイター)