Jリーグ史上初めて女性として主審を務めた山下良美審判員(35)が17日、担当した16日のJ3、YS横浜-宮崎(ニッパツ三ツ沢球技場)を振り返った。選手だったが審判の道に進んだきっかけ、女性審判員の今後などを語った。

歴史的なデビュー戦から一夜明け、山下審判員は「ホッとした気持ちが一番」と胸をなで下ろした。Jリーグ29年目にして、初めて女性主審が試合を裁いた。先輩や仲間が積み上げてきた信頼も背負って臨み、日本協会によれば、両クラブから「ストレスのないレフェリングで、安心して見ていられた」と言われる上々のデビューを飾った。第一人者は、「女性審判員が男性の試合を担当するのが当たり前になることが、私の目標とすべきこと」と、自身の役割を再確認した。

兄の影響で幼稚園のころにサッカーを始めた。東京学芸大時代にOGでもある坊薗真琴審判員に誘われ、気が進まない中「1試合だけやればいいや」と審判の道へ。だが、試合を重ねる度に「もっとこうしたい」と向上心が芽生え、なでしこリーグの副審を務めたことで責任の重さを感じ、審判という仕事に向き合っていった。

男子の試合を裁くことが目標だったわけではない。1人の審判員として上を目指そうと、努力を重ね、19年にJリーグの試合を裁くことができる1級審判員資格を取得。実力を認められ、今季初めてJリーグの審判リスト入り。東京五輪の審判団にも選ばれている。

会見に同席した日本協会の黛俊行審判委員長は「22年のW杯の欧州予選では、2人の女性審判員が主審を務めている。日本でも優秀な審判員を強化して、性別に関係なく、こういうカテゴリーを担当できる世界にしていきたい」と話した。山下氏の踏み出した1歩が、これからの審判の世界を変えていくかもしれない。【杉山理紗】

◆山下良美 やました・よしみ。1986年(昭61)2月20日生まれ、東京都出身。東京学芸大女子サッカー部でプレーし、卒業後は14年まで女子クラブチームのFC PAF(東京)でプレー。15年から国際主審となり、19年の女子W杯フランス大会では決勝トーナメント1回戦などを担当

◆欧州の女性主審 フランス人のステファニ・フラパールさん(37)が、女性で初めて欧州CLで審判を務めている。昨年12月2日のユベントス-ディナモ・キエフ戦で主審を担当。19年8月のリバプール-チェルシーの欧州スーパー杯でも主審を務め、欧州連盟(UEFA)のメジャーな大会で笛を吹いた初めての女性レフェリーに。フランス1部リーグでも19年4月に女性として初めて主審を務めた。6月の欧州選手権にも、大会史上初の女性審判員として名を連ねている。

◆Jリーグの審判 日本協会の審判委員会が、1級審判員資格保有者から毎年「Jリーグ担当審判員リスト」を作成。21年は山下審判員を含めて59人の主審が登録されている。このうち、審判活動で生計を立てる「プロフェッショナルレフェリー(PR)」は13人。国際主審は7人で、山下審判員以外の6人はPRとして活動している。山下審判員は16日に初めてJリーグの公式戦が割り当てられるまで、JFLの試合を担当していた。

◆男子クラブの女性監督 2014年にフランス2部のクレルモンがポルトガル人女性のエレナ・コスタ監督と契約したが、シーズン開幕前に辞任。続いて元女子フランス代表のコリーヌ・ディアクル監督が就任した。アジアでは香港出身の陳婉〓(女ヘンに亭)(チャン・ユェンティン)監督がイースタンを率い、16年にリーグを制し、翌17年にはACLに出場した。FIFAは「男子チームの大陸別の大会で指揮を執った初の女性」とした。現在、JFLの鈴鹿ポイントゲッターズをJFL初の女性監督、スペイン人のミラグロス・マルティネス監督が率いている。

【世界も反応「歴史が作られた」】

○…山下審判員の大きな1歩は世界にも伝わった。FIFA女子W杯の公式ツイッターアカウントは「歴史が作られた」と伝え、2020年のFIFA公式サイトでのインタビューをあらためて紹介。イタリアからは、日本代表主将の吉田麻也(サンプドリア)がインスタグラムで拍手の絵文字付メッセージで祝福した。