初めてアジアで開催されたラグビーワールドカップ。ベスト8に勝ち上がったチームの中に日本という文字を見たとき、鳥肌が立った。

予選リーグを全勝した後、選手たちは決勝トーナメントの戦いに向け、ポジティブなコメントしか発していなかった。

その発言が私たちファンに期待を持たせ、もっと見たいという思いにさせられた。選手の言葉というのは、とても影響力があるものなのだと改めて感じさせられた。


今までラグビーに興味がなかった人も、「オフロードパス」などの意味や言葉を知ったのではないか。

「スポーツ界最大の番狂わせ」と世界のラグビー界を激震させた2015年大会の南アフリカ戦。そこから確実にイノベーションしているのは、結果を見ればわかるだろう。オフロードパスも、前回の日本代表にはなかった。

世界の強豪国と戦う中でいろんな戦略を持ち、ひとりひとりの役割がオンザフィールドで輝いていた。本当に感動した。

「絶対ベスト8に行く」

この言葉を胸にジャパンチームは変化してきた。選手たちの、臥薪嘗胆(がしんしょうたん)の精神に脱帽だ。


4年前は、まさか南アフリカに勝つなんて想像していなかった。でも信じていた。そんな情熱と熱い思いがいろんな人の心に浸透した。当時だって、試合を見ながら大泣きした。「ハードワーク」を掲げて、エディ・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)のきついといわれる練習をこなして、JAPAN WAYのプライドを証明できた大会だった。

しかし決勝トーナメントには進めなかった。


その悔しさを胸に歩み始めたのが、今大会のチームだ。

日本代表のHCがジェイミー・ジョセフ氏に代わり、最初はかみ合わない戦術だといわれ、ファンは心配した。でもそこから、選手とHCが歩み寄り、思いを分かち合い、今回のラグビーワールドカップ2019を迎えた。


4年前と比べてメンバーは半分くらい変更になった。これは当たり前のことで、前回のコラムでも書いたが、4年とはいろんなことが変わる時間だ。

それでも、堀江翔太選手、田中史朗選手、トンプソン・ルーク選手、リーチ・マイケル選手、ツイ・ヘンドリック選手、田村優選手、稲垣啓太選手、アマナキ・レレィ・マフィ選手、福岡堅樹選手、松島幸太朗選手ら、前回大会を経験した選手がいることで、見ている方としても安心感が大いにあった。

そこに新しい選手が加わり、全員で戦う。ラグビーならではのチームJAPANという新たな意識がすごく伝わった。


では今回は何がすごかったのか。

自国開催ということが要因として掲げられるが、ラグビー精神がさらに一体感を呼び、熱気を帯びた。

準々決勝の南アフリカ戦、前半は3-5と接戦だった。前半終了間際の相手トライは反則で取り消され、僅差で前半を終えていた。「ハーフタイムでは選手たちが疲れていた」とジェイミーHCが言っていたが、後半は自陣でのプレーが目立ち、最終スコアは3-26。ベスト4へは行けなかった。

ただこの試合でも、多くの海外ラグビーファンが、日本はティア2(中堅国)ではなく、ティア1(強豪国)だろうと称賛していた。ニュージーランド代表、オールブラックスのスティーブ・ハンセンHCも、記者会見の際に日本のラグビーはティア1に匹敵すると述べていた。

この頑張りに拍手を送らずにはいられないだろう。


台風の影響で試合が中止になったり、各地が被災した時も、日本だけでなく各国の選手たちはそれを受け入れた。被災者や被災地に寄り添うコメントが多く発信された。スコットランド戦で、田村優選手と激しく衝突したフランカーのジェイミー・リッチー選手は、のちにSNSで謝罪し、田村選手もそれに返信してラグビー精神、スポーツ精神をみることができた。

日本の戦いぶりは、称賛以外の何ものでもなかった。でも他国の選手らの負けたあとの振る舞いや、発言も本当に注目すべきものだった。

勝敗だけがすべてではない。タフワークで戦う姿、そのあとの友情。1人1人がこの素晴らしい瞬間から自身の人生に照らし合わせていただきたい。

子供たちへもそうだ。10月28日に早稲田大学のグラウンドでラグビースクール「全国一斉ラグビー体験会」を開催する。詳しくは日本ラグビー協会のサイトで見ていただけるとうれしい。

ここからが、新たなラグビーの歴史のページを増やしていく大事な時期になっていくだろう。2020年1月からはトップリーグも始まる。日本のラグビーが伝えたかったこと。さらに多くのラガーマンから、スタッフから発信されることを期待したい。

今週末、ワールドカップはセミファイナル、ファイナルと続く。

最後まで一体感を持って応援したい。

(伊藤華英=北京、ロンドン五輪競泳代表)