今回は少しスポーツと離れて、私が最近読んだ本で最もインスパイアされた本を紹介したい。

全世界で1000万部以上売れている、ミシェル・オバマさんの著書「マイ・ストーリー」。英語の原題は「BECOMING」という。2018年に英語圏などで発売された。ミシェルさんは言うまでもなく、アフリカ系アメリカ人初の米大統領、バラク・オバマ氏の奥さんだ。

私が2018年の冬にオーストラリアへ行った際、キャンベラ空港の書店で「なんか面白そう」と思っていた本だ。当時、荷物が重くてこの本を購入できなかった。日本語訳が出たらすぐ読もうと思っていた。

日本では昨年8月に発売された。妊娠中に買ってみたものの、なかなか読書に手がつけられず、出産から半年たってこの本を読むに至った。


私は1人の女性として、この本に大変勇気づけられた。幼少期から現在に至るまでの事柄だけでなく、彼女の思い、気持ちが非常に細かく書かれているのだ。ファーストレディーとしての自分だけではなく、本来の自分がしっかり書かれている。運命や、しなくてはいけないことに翻弄(ほんろう)されながらも、自分の人生のチャプターを重ねていく様子には、多くの人が共感するのではないだろうか。

たとえばバラク・オバマと交際していた若い頃、「彼の夢の付属品」以上の存在になるよう努力する人になっていったという。女性ならではの視点だ。

「今ある世界を受け入れるか、あるべき世界の実現に向けて努力するか」というバラク・オバマの言葉にも心を打たれたが、彼女は夫のことを理解した上で「自分がしっかりしなければ、流されてしまう。彼の単なる付属品になりたくはなかった。だから、一生懸命働いたし、法律の仕事を離れる決断もした」と書いている。


彼女は元々、プリンストン大学とハーバード大学法科大学院を卒業した超エリート。シカゴのシドニー&オースティン法律事務所で弁護士として働いていたが、結婚して子供が生まれると、人生の状況はより過酷になっていく。

「私は十分な人間なの?」。この言葉が苦難の場面で多く出てくる。世の中に翻弄されやすいこの時代、今すぐ私たちもできる「自分との対話」だなと思った。

私自身も自分に問う言葉がある。「私ができることはなんなのか」ということだ。ひとりの人間ができることは少ないかもしれない。だが、自分が存在するこの社会や世界のことを考えてもいいのかなと思う。

自分がつらいとき、苦しい時、自分に問う言葉を見つけてみるのもいいかもしれない。モヤモヤしている気持ちがある人は試してみたらどうだろうか。


アメリカ合衆国の第44代ファーストレディーである彼女の言葉はリーダーシップがある。そう素直に感じた。世界中の女性へのメッセージにも受け取れる。

最後にこの本に「ありがとう」と伝えたい。

(伊藤華英=北京、ロンドン五輪競泳代表)