陸上女子やり投げの北口榛花(27=JAL)は世界選手権東京大会(13~21日)で予選敗退となった。23年世界選手権ブダペスト大会、24年パリオリンピック(五輪)と世界大会を2年連続で制したが、今季は6月に右肘痛を発症。その影響もあって今大会は60メートル38で予選全体14位にとどまり、上位12人による決勝へは進めなかった。
目標の3年連続世界一へ向け、今オフには水泳、柔道、体操、クロスカントリー、ダンス、発声、ハードルなど、多種多様な競技のトレーニングにも励んだ。今年1月にはバドミントン女子シングルス元日本代表でパリ五輪8強の大堀彩さん(28)とも合同練習を実施。投てきにつながる動きを模索した。大堀さんの言葉を引きながら、貪欲に競技向上を目指した姿を描く。【取材・構成=藤塚大輔】
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大堀さんのもとには、共通の知人を通じて声がかかった。北口から懇願されたのは「バドミントンの体の使い方をやり投げにつなげることはできないか」というもの。もともと交流がなかったため、北口からの連絡には驚いたという。
「五輪などで活躍されていたのはよく知っていました。もちろん、他競技のアスリートの方からこのようにお声がけいただいたのは初めてです。私で良いのだろうかと思いましたが、選んでいただいたうれしさもあったので、何かやり投げにつながることをお伝えできればと思いました」
1月下旬に都内の体育館に集まり、約2時間トレーニング。大堀さんが発案したメニューのもと、ウオーミングアップから羽根打ちまでをともにした。北口は小学生のころにバドミントンに打ち込み、全国大会に出場した実績もある。大堀さんも「とても上手でした。代表選手がやるような内容もこなせていました」とうなるほどだった。
特に際立っていたのは、肩や肘の柔軟性。バック側へシャトルが飛んだ時にも、身長179センチの体をしならせて力強く打ち返してきた。
「肩と肘の使い方は、普通にバドミントン選手のようでした。経験者ということも知ってはいましたが、想像以上にラリーもできてびっくりしました。クロスにギリギリのところへ打つのはすごく難しいですが、北口選手はそれがすぐにできていました。柔軟性や体幹の強さも感じました。北口選手なら少し難しいメニューもできると感じたので、当初より難度の高い練習もしました」
大堀さんが授けたのが、利き腕とは反対の手をポケットに突っ込んだまま羽根を打つ動き。バドミントンでは何も持っていない手でバランスをとりながらプレーするのが通例だが、その手をあえて制限することで、体幹を使うことを意識付ける狙いがある。
「素人目線ではありますが、やり投げはバドミントン以上にバランスが重要かと感じたので提案させていただきました。体幹を鍛えるのは、どのスポーツでも大切ですから」
トレーニング中はスタッフが撮影した動画を見返しながら、シャトルを打つ時の足の動きや体のバランスの取り方など、細部を突き詰める姿があった。大堀さんも「そういう細かさが世界一という結果につながっているのかなと思います」とあらためて実感したという。
とりわけ印象に残ったのは、北口の人柄だった。初対面でも気さくに接してくれたといい「テレビで見ていたまま。すごくすてきな方でした」と振り返る。
それは約2時間の合同練習に限った話ではなかった。
トレーニングからしばらくたった日のこと。北口から動画が届いた。
そこに映っていたのは、右手でやりを持ちながら、左手をポケットに突っ込んだ様子だった。大堀さんから教わったことを、やり投げの投てき動作でも試してみたのだという。
「実際にやりを持って同じような動きをしてみたらしっくりきました、というコメントも送っていただきました。そこまでしてくださる選手は、なかなかいないと思います」
23年から世界一に立ち続けてきた北口は、今季にかけても自分なりに強くなろうとしていた。
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それから約9カ月。北口の3年連続の世界一はならなかった。
笑みがはじけたこれまでの2年とは違って、大粒の涙が頬をつたった。
ただ、ペン記者による取材の最後には、こう口にしていた。
「世界大会の借りは世界大会でしか返せない。ここで決勝残れなかったからといって、人生終わりだとは思わない。ちょっと長い休みは必要かもしれないですけど、強くなって戻ってきたいと思います」
涙は乾き、澄んだ瞳で言い切った。
これからも強さを求め、自分だけの道を歩んでいくはずだ。
(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)



