5月末に行われた日本ツアー選手権森ビル杯のプロアマで、片山晋呉が同伴のゲストに対して「不適切行為」を行ったとして謝罪会見を行った。この一連の騒動はスポーツ界のみならず、一般ニュースなどでも大きく取り上げられてしまった。業界全体がプレーヤーのすそ野を広げたり、トーナメントのスポンサー獲得に奔走している中、ネガティブな形でゴルフが取り上げられるのは何とも残念なことだ。そしてこのニュースを聞いたとき、以前PGAツアーのプロアマで、ジャスティン・ローズのしたことを思い出した。


●認識のギャップが生む不幸


 今回のニュースで何度も報道されていたが、ゴルフトーナメントは賞金も含めて莫大な運営費用がかかる。その費用は複数社のスポンサーからの協賛金でまかなわれている。


パッティング練習をするジャスティン・ローズ
パッティング練習をするジャスティン・ローズ

 プロアマはそういった出資者側とプレーヤーが交わる機会の一つだ。プロは出資している企業関係者とプロアマを通してラウンドすることで、技術の高さやゴルフの楽しさを見せる。一方企業は、出資したことで得られるプロアマの枠に得意先などを招待して、スポンサーメリットを享受する。

 個人的には互いに持ちつ持たれつの関係で、立場は対等になることが健全だと思っている。

 しかし、莫大な金銭が絡む以上、「金を出している」という意識が生まれるであろう事は想像できるし、選手側にも「腕一本で稼いでいるんだ」という気持ちがあると思う。

 だからこの構造を理解してお互いを尊重し合ってトーナメントを作っていけばよいと思うのだが、互いに自分の気持ちを優先してしまった瞬間に両者の認識にギャップが生まれ、今回のような事態を招いてしまうのではないか。


●PGAツアーのプロアマ


 PGAツアーにもプロアマはあり、役割と構造は日本のそれとほぼ同じだが独自の取り組みもあった。あるPGAツアーのプロアマ前夜祭で、プロとアマチュアの組み合わせをオークションで決めていたことがあった。人気が高くランキングも上位のジャスティン・トーマスやリッキー・ファウラーとのプレー権は、時に100万円以上の高額で落札されることもある。そしてその落札金額の一部もしくは全額は、慈善団体などに寄付される。

 落札者は選手を評価、尊敬して大金を出し、大金を出したからこそ特別なラウンドの時間を非常に大切にする。一方の選手も、自分のプレー権に掛けられた金額に恥じないようなラウンドにしようと心がけるようになるだろう。

 私は幸運な事に、リオ五輪の金メダリストであるジャスティン・ローズとのプロアマにキャディーとして参加したことがある。片山が指摘をされたことのひとつに「ラウンド中のパッティング練習」があったが、ローズもプロアマ中に同じことを行っていた。

 しかし同伴者はまったく不快な思いをしなかった。彼はラウンド中、常に紳士的で、同伴者のプレーはすべて見ていたし、ショットに対するコメントも的確で声をかけるタイミングも絶妙だったからだ。

 アマチュアからスイングの助言を求められれば的確にアドバイスをするが、自ら率先してアドバイスを送ることはなかったし、同伴アマチュアのラインを読むこともしなかった。前の組との時間が詰まっているとき、グリーン上で数回パッティング練習をしていたが、同伴者たちは「プロは大会直前にこんなところをチェックしているのか」と勉強になったと語っていたくらいだ。

 プロが同じようなことをしていて、同伴者がプレーをやめるほどのトラブルになるのと、勉強になると感嘆するのと、どこに差異があったのか。

 私たちの組にあったのはお互いへの尊敬だと思う。同伴者たちはローズに対して技術の高さはもちろんだが、垣間見える人間性やプレーぶりに敬意を抱いたし、ローズも大会ホスト側の人間としてプロフェッショナルに接していた。どういう形で一緒になったにしろ、半日同じ組でラウンドをするのだから、この気持ちは欠いてはいけないと思う。


●ゴルフがうまい=”エライ”わけではない


 今年1月下旬に開催されたファーマーズインシュランスオープンを取材した際、プロアマ日の早朝5時に自ら車を運転してゴルフ場の駐車場へ向かうタイガー・ウッズを見かけた。その日は7時からのトップスタートになっていたため、あたりは真っ暗な夜明け前から会場に到着していたのだ。ウッズほどの実力と人気があってもプロアマにはプロフェッショナルな準備をして臨む。


プロアマを終えたタイガー・ウッズ
プロアマを終えたタイガー・ウッズ

 ゴルフではなぜか「良いスコアを出している人がエライ」ととらえる人が多い。しかし本当に優れているゴルファーとは同伴者に敬意を持ち、常にそこから謙虚に学ぶ姿勢を持つ者ではないだろうか。「ゴルフが上手いからエライ」ではなく、「上手いゴルフで何を与えられるのか」。PGAのトッププレーヤーたちを見ていると、彼らの利他の精神がツアーの発展を支えていると感じた。


 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。欧米のゴルフ先進国にて米PGAツアー選手を指導する80人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を直接学び研究活動を行っている。書籍「ロジカル・パッティング」(実業之日本社)では欧米パッティングコーチの最新メソッドを紹介している。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/

(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)