久しぶりに「これはすごいものを見た」という感覚になった。18日まで千葉・袖ケ浦CC新袖Cで行われた、国内女子ツアーのニチレイ・レディース最終日。首位と4打差の2位から出た岩井明愛(20=Honda)が、8番パー4で奪ったチップインバーディーは、驚きを通り越して、自分の目を疑うほどだった。今後も長く続く岩井明のプロ生活を通じても、代表するプレーの1つになるかもしれない。そう思わせるほどのインパクトだった。
岩井明の8番第2打は、グリーンを越えてラフにこぼれていた。しかもバンカーのすぐ手前の打ちづらい位置。ピンまでは14ヤードも残っていた。
「パッと思いついたのが、バンカーに足を入れてクラブを短く持って打つ」。事実、岩井明は最初に、両足をバンカーに入れて、胸元ぐらいの高さのボールを打つイメージをふくらませた。だが、バンカーの傾斜はきつかった。バンカー内で足場が比較的いい位置に立つとなると、野球でいえば内角高めのボール球に手を出すような、窮屈なスイングになる。ラフも深く、ボールが見えづらかったため、空振りする可能性も十分。すぐに思い直した。
もう一つ思いついたのが「片手打ち」だった。両足をバンカーのすぐ外、両方のつま先をピンに向かうようにして立った。ラフも傾斜はきつかった。しかも通常のスタンスで構えると、後方にバンカーがあるため、体の軸よりも後方にあるボールを、かき出すようにして打つしかない。距離感も、方向性も定めるのは難しい。右足をバンカー、左足をラフに置くことは、身長が250センチでもなければ不可能。バンカーのアゴは崖のようにそびえ立ち、ラフとバンカーの高低差は1メートル以上もあった。
そこで選んだのが、ピンに正対し、テニスのフォアハンドのように右手1本で打つ方法だった。両足をバンカーに入れた状態から打つのと比較し「確率的に、どっちが高いかなと考えた時に、片手の方が打ちやすかった」と決断。体を開いた状態で打つため、両手でウエッジを握ることもできなかったが、絶妙な力加減で打った第3打はラインに乗った。数秒後に「ウォーッ」という、大歓声を呼び起こすチップインバーディー。観衆の方へ振り返って両手でガッツポーズをつくった。
ツアー史上初めて、姉妹で最終日最終組を回った、双子の妹の岩井千怜もバンザイのポーズをつくって大喜びした。グリーンの反対サイドにいた岩井千は、すぐに駆け寄り、2人でグータッチを交わした。岩井明は「こんなことってあるんだな、って思った。すごい楽しかった」と、笑顔で振り返った。
この時点で、スタート時点では4打差あった、首位の山下美夢有とは2打差に縮まった。同じ8番で岩井千もバーディーを奪い、流れは姉妹に傾いていた。それでも昨季の年間女王、今季も年間女王争いの先頭を走る山下相手に、4打差を逆転するのは難しかった。最終的には3打差をつけられ、岩井明は2位。岩井千も山下との差を1打縮めるにとどまり、5打差の3位に終わった。別々に取材対応した2人は偶然にも「隙がなかった」と同じ言葉で、山下の強さに脱帽した。
ただ、敗れたが、衝撃を与えるプレーだったのは事実だ。岩井明が8番の第3打に悩んでいたため、岩井明の後方まで近づいて、状況を自分の目で見て確認した。その位置からだと結果的に、転がったボールの行方は見えなかったが、大歓声の後に振り返って両手でガッツポーズする岩井明。その後方では岩井千が両手を挙げてバンザイ。もしも岩井明が逆転優勝していれば、史上初めて姉妹で最終日最終組を回ったこともあり、自分が肉眼で見ただけの、この瞬間が象徴的なシーンとなっていた。カメラマンは軒並み、反対サイドにいたため、誰も写真や映像に納めていない。“幻のベストショット”を目撃し、地鳴りのような大歓声を聞き、鳥肌が立った。テレビ中継では伝えきれない、現場の醍醐味(だいごみ)を感じ、一段と「これはすごいものを見た」と感じた日となった。【高田文太】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)


